第14話

 スライムの討伐部位証明は、その身体の中心にある核と呼ばれる部位である。核はスライムにとっては人間における心臓、肝臓、肺といったあらゆる臓器を合体させ一つどころに集めたような機能を果たしているらしい。

 そんな重要器官である核は、加熱により粘度や硬度が変わる性質を持っており、専用の設備が整ってさえいれば色々な製品のパーツに使用することが可能であるらしい。スライムの核を使った芸術品などというものも、存在しているということだった。

 核の需要自体は高いのだが、その討伐難度の低さと技術運用の難しさから来る加工可能な店の少なさからそれほど高値にはなっていない。将来的に見れば価値が上がる可能性は十分に考えられており、投機としてスライムの核を大量に備蓄している商人がいたりなかったり……という噂も、まことしやかに囁かれている。

 その主な攻撃手段は体当たり。重さがそれほどないために、攻撃の後にのしかかられてもすぐにカウンターを放てるほどの威力しかない。

 討伐方法は、基本的には長い棒で核を傷つけること。スライムの動きはかなり遅いために、頑張れば街の子供でも倒せるほどに弱いとされている。スライムの大きさはそれほどのものではなく、外の膜も中の液体部分もそれほど硬度はない。そのためわざと攻撃を食らってから体内に直接手を入れて核を抜き取ることも出来る。

 魔法で焼き殺すことも可能で、向こうの体当たりが効かない範囲から一方的に遠距離攻撃を仕掛ければ一切の抵抗なく討伐することが可能である。

 ただだからといっていくら油断していても倒せるというほどのものでもない。彼らもまた魔物であり、人間とは根本的に相容れない存在である。

 彼らは単為生殖が可能、つまり一体いればいくらでも増えることが出来、ゴブリンと同様驚異的な繁殖能力を持っている。

 一体では倒すことが簡単だといっても、二体三体と同時に相手取ることになると徐々に厳しくなってくる。

 簡単に突き破れるからと浅はかに考え右手と左手をスライムに突き込んだら、三体目のスライムに顔を覆われてそのまま窒息死。というのはスライム狩りの末路としては一番有名なものらしい。

 総括すると、一体ならば誰でも倒せる。だけど複数体いそうなら作戦を考えるなり退却するなりを視野に入れるべきである、案外ベテラン冒険者向けの魔物ということらしい。

 ミースに教わった言葉を一言一句思い出すことの出来たディルは、正直自分の記憶力もまだまだいけるもんじゃなと意味もなく頷いた。

 正直なところ全てを理解できたわけではないし、ぶっちゃけた話をすると半分も意味は理解できていない。

 よくわからないなりに基本的にはゴブリンと同じで、一体や二体の奴らを狙えばいいのだなという理解をするディル。

 彼は昨日ゴブリン狩りをした東部の森ではなくその逆、西部の山脈の麓にある平原へと一人歩いていった。


「老骨に冷たい気温が染みるの……」


 昨日の見切り使用全力ダッシュによりなんとなくのコツを掴み、ディルはスキルを使用せずともある程度あのぬるぬる歩行法を行えるようになっていた。

 彼は老人にしては早く、冒険者としては一般的な速度で平原に辿り着いた。


「そう、ここは、えっと……たしか……なんとか平原じゃな」


 加齢と共に記憶力が結構ヤバいことになっているディルは、忍び寄るボケの気配を振り払い目の前の草原に目をやった。さっき自分の記憶力を誉めていた記憶は既に抹消しているあたり、彼の脳は非常に都合良く出来ている。

 平原はかなり広く、所々に冒険者達の姿が見えた。

 老眼のために何をやっているかはよくわからなかったが、ここはスライムが出る場所なのでまず間違いなくスライム狩りをしているのだろう。

 ディルの格好は今日も着の身着のままの普段着である。食料も前日にミルチ達と一緒に買った屑野菜を炒めてもらったものだけで、予定はもちろん日帰りである。

 ところどころに、何やら骨組みを作った物の上に布を被せている物体が見えた。

 恐らく夜営のための施設だろう。やはり往復の手間を考えると、泊まり込みで戦った方が都合が良いんじゃろうなぁと少しだけ若く健康的な肉体が羨ましくなる。

 わしもポーションで腰痛が取れたら、あんな風に野宿してみたいの。

 遠くでスライムを狩っている冒険者達を微笑ましく見つめてから、ディルは気持ちを引き締めて木剣を握った。

 いかんいかん、わしももう冒険者。

 スライムよ、待っておれ。今狩ってやるからの。

 おじいちゃんは昨日と違い周囲に大量にいる冒険者達を見て、戦意に震え立つ。

 そして目を必死に細めながら、スライムを探し始めた。

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