第52話
「今度のパーティー、貴女は誰と参加するのかしら?」
「…………。ベルジェ殿下です」
「まぁまぁ……!最近、ベルジェ殿下がルビーに恋をしていてモイセス様と取り合っているって噂が流れているけれど、知ってる?それに貴女がお溢れを貰ったって言われているのよ」
「へぇ……そうなんですね」
「…………」
チクリと刺すような言葉に簡単に動じる事もなく笑みを浮かべた。
(お溢れ、ね……以前のジュリエットが神経を逆立てそうな言葉だわ)
わざと言っているの?と聞き直したくなるようなチクリと刺すような言葉選びがずっと気になっていた。
流石にくじ引きでパートナーを決めたことは知らないのだろう。
でなければ真っ先にアイカはその事を口にしそうだと思った。
ルビーと話している時にマイナスな考えをする理由を問うと大抵「でも……アイカもそう言っていたの」という言葉がいつも出てくる。
それに一度、ルビーとアイカと三人でお茶をした時も、アイカの言葉が気になり「そういう言い方はどうなのでしょうか?」と、やんわり咎めた際に「そんなつもりはなかったの。ごめんなさいね」と、慣れた様子で何事もなかったように躱してきたところをみるに、頭の回転が早い女性だという事が分かる。
「あぁ、でもルビーはすっかり腑抜けちゃって……フフッ。あんなに露骨にアピールするのは恥ずかしいとは思わないのかしら?ねぇ、ジュリエット」
「…………」
今度は、ご丁寧に『ジュリエット』が大嫌いだったルビーの愚痴まで言って距離を測ろうとしている。
以前のジュリエットなら間違いなく喜んでアイカの言葉に賛同した事だろう。
アイカと余り関わらないようにしていたせいか、まだ昔のジュリエットのままだと思っているのかもしれない。
「……。ああ、そうだわ。ベルジェ殿下は優しくて照れ屋でいらっしゃるから、今回もわたくしをパーティーに誘えなかったのよ」
「え…………?」
「何度かルビーと御一緒させて頂いた時に、とても可愛らしい反応をするから……今回こそはお誘いをして頂けると思ったのに残念だわ」
「…………」
「あら……リロイ様やルビーから聞いてないの?」
「えぇ、全く」
「……そうなの、残念ね」
アイカは手を合わせて嬉しそうに微笑んでいる。
確かにルビーやリロイは、ベルジェの好きな人がいると言っていた。
それが『アイカ』なのかもしれないと頭に過ぎる。
アイカは此方を牽制するようにベルジェの名前を出した。
そして彼が好きなのは自分だと遠回しに伝えている。
今はジュリエットは色々な令息達の写真を広げているのにも関わらず……。
(つまり今回、ベルジェ殿下とパーティーに参加出来るのは偶々だから、勘違いするなよって事かしら?)
アイカは嘘と真実を織り交ぜながら上手く話しているような気がした。
「毎回、パーティーにはベルジェ殿下の元に山のようなお誘いが来ていたのに、いつもはやんわりと躱していた。けれど今回だけはキッパリとお断りになったのよ?」
「へぇ……」
「わたくしが誘われるかと思ったのだけれど、今回はルビーの為に貴女と参加する事になったようね」
「!!」
「ルビーはモイセス様と参加する事がハッキリと分かって、でもベルジェ殿下が誰と参加するのは最後まで明かさなかった………勿論、わたくしにも。それはどうしてかしら」
「………」
「貴女が婚約を解消して、一人でパーティーに参加する事が哀れだったからでしょう?ルビーもそう思ったのでしょうね。自分だけ幸せで、貴女が惨めだったら周りに何を言われるか分からないもの」
「………」
「ウフフ……こんな事言ったらアレだけど、可哀想ね」
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