第50話
「やはり……面倒だったりするのだろうか」
「!!」
ベルジェの言葉に色々な意味が含まれているように思った。
それは『王太子』という立場故のものだろう。
そう考えると、ベルジェが簡単に踏み出せない理由も分かってしまった。
優しいベルジェの事だ。
相手に迷惑を掛けたくないという思いが強いのかもしれない。
「ベルジェ殿下は……どうしたいのですか?」
「え……?」
「勿論、相手の気持ちは大切ですけど、まずベルジェ殿下自身がどうしたいのか…………それから相手の方に確認するのはどうでしょうか?」
「…………」
「始まる前から諦めるのは勿体ないような気がします」
我ながら良い回答ではないだろうか。
ベルジェその言葉を聞いて目を丸くしている。
それに立ち止まって悩んでいるだけでは何も解決せずに苦しいだけだ。
「自分の、気持ち……」
「はい」
「俺は……っ!俺はジュリエット嬢に伝えたい事がッ!」
そんな時だった。
「ーーーお兄様ッ!!今、早馬で手紙が届きましたわ。今すぐ城に戻らないと……!リテ皇国からお客様がいらっしゃったそうですわ!」
「リテ皇国……!?彼が来るのは明日の予定ではなかっただろうか?」
「それがサプライズだと……お兄様がいなければ言葉が通じません!きっと皆、困っていますわ!急ぎましょう」
そう言うと、ベルジェは悔しそうに一瞬だけ唇を噛んだ後に、すぐにいつもの表情に戻った。
「ルビー嬢、ジュリエット嬢、すまない……!失礼する」
「いえ……!お気をつけて」
先程の態度とは切り替わって別人のようなベルジェは「見送りはいらない」と言って早足で去って行った。
その後ろに残念そうなモイセスと名残惜しそうに振り返るキャロラインが続く。
「「…………」」
「わぁ……!タイミング、最悪だね」
「ーーッ!?」
「リロイ様……!」
「あと少しでも何かが変わりそうだったのに……残念だ」
背後から静かに現れたリロイに二人で肩を揺らした。
「ベルジェはこうしてカイネラ邸に通っているけど常に忙しくて、あっちこっちで引っ張りだこだよ。完璧過ぎるのも考え物だね」
「リテ皇国って独特な語学を話しますよね?」
「そうだよ。だからどの国もリテ皇国と上手くコミュニケーションが取れなかったが、ベルジェは難なくリテ皇国の言葉やマナーを習得したんだ。独学で言葉を覚えて、数ヶ月の留学で完璧にマスターした」
「……すごい」
「僕はベルジェを尊敬してる。本人が鼻にかけていないだけで彼は天才だよ」
「そうなんですね……」
「…………惚れた?」
「誰にですか?」
「マジか……」
「???」
リロイとルビーは目を合わせて苦い表情を浮かべた。
しかし明らかにリロイの「惚れた?」は、ジュリエットに向かって言っているような気がしたが、先程のベルジェは「好きな人が居る」と言っていたが、リロイはその人物を知らないのだろうか。
「先程、ベルジェ殿下は好きな方がいるって言ってましたけど、リロイ様は知ってますか?」
「あー…………うん、知ってるねぇ」
「ルビーお姉様は?」
「あっ……えっと、何度か殿下にお話を伺った事があるわ」
「……ふーん、どんな人なんだろう」
「「…………」」
リロイとルビーは再びチラリと視線を合わせた。
容姿端麗、運動も出来て知識も充分……地位、名誉、全て兼ね備えているこの国の完璧過ぎる王太子は、なぜか好きな人に振り向いてもらえない。
それはベルジェのジュリエットに対する控えめな態度と曖昧すぎる言葉にも原因があるのだろうが、側から見ていると余りにも不憫で焦ったいと思った。
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