第49話

「ーーー!?」


「勿論、答えたくないなら大丈夫ですよ?」


「違うんだ……!その……っ」



ベルジェはそう言って顔を赤くした後に固まったように動かなくなってしまった。

彼の言葉を待っていると、ついには両手で顔を隠すように覆ってしまった。



「……ふふっ、好きな人が居るんですね?」


「それは、居るが……っ」



その瞬間、何かが心に引っかかったような気がした。


(ベルジェ殿下は、好きな人が居るんだ……)


ずっとルビーの事が好きだと思っていたが、カイネラ邸に来ていたのは相談の為だった。

おどおどしているが、優しくて思いやりがあるベルジェに愛されるのなら相手も幸せだろう。

嬉しいはずなのに何故か素直に喜べなかった。

ふと、そんなベルジェを射止めた女性が気になった。


(ベルジェ殿下が選ぶ人ってどんな人なのかな)


そんな思いからか、口からポロリと言葉が漏れる。



「どんな人なのですか?」


「…………え?」


「ベルジェ殿下の好きな方は、きっと素晴らしい方なのでしょうね」



そう言った瞬間、パァッと雰囲気が明るくなり、瞳を輝かせたベルジェは今まで見たことがない程に嬉しそうに語っていた。



「あぁ、彼女は本当に楽しい人なんだ!話す度に以前よりも、ずっとずっと好きになる……!」


「……そうなんですね」


「俺には勿体無いくらい可愛くて、思いやりがあって、優しくて……それに気配りも出来るんだ。普通は躊躇するような事も、自分から進んで手を伸ばしてくれて……沢山助けられた。そんな彼女を心から尊敬しているよ」



ベルジェの熱量に驚いていた。

本当にその女性の事が好きなのだろう。

でも何故か体が重たくなっていくような気がした。

もうやめた方がいい、そう思うのに口が勝手に動いてしまう。



「ベルジェ殿下は、どうしてその方に想いを告げないのですか?」


「……!!」



先程の嬉しそうな表情とは違って、ベルジェの表情は暗くなる。

ベルジェが告白して断る令嬢など居ないのではないかと考えていると……。



「俺は…………彼女に嫌われているんだ」


「嫌われている……?」


「あぁ、それに彼女のタイプに全く当てはまらなくて……」



完璧王子と呼ばれているベルジェが好みから外れるてなると考えられる事は一つだけだろう。



「ベルジェ殿下はとても優しくて思い遣りのある人なのに……その人は勿体ない事をしていますね」


「……!?」


「モイセス様からもリロイ様からも、キャロライン様からもベルジェ殿下のお話を沢山聞きました。もっと自信持っていいと思います」


「…………ッ!!」



照れているのかベルジェの顔が再び真っ赤になっていく。

恐らくその子の事を思い出しているのだろう。



「それに勇気を出して言ってみることも大切ではないですか?」


「勇気……」


「想いは黙っているだけでは伝わりませんし……」


「!!!」



意外と裏ではモジモジとして恥ずかしがり屋のベルジェの事だ。

好きな人に想いを伝えられなくて困っているのだろうと思った。

それにキャロラインも「お兄様ってば悩んでばかりで……」と言っていた事を思い出した。



「そのっ……それは、ジュ、ジュリエット嬢は……もし、もしも俺が」


「……?」


「お、俺がジュリエット嬢のことが好きだと言ったら受け入れてくれるだろうかッ!!!?」


「え………?」



一気に言い切ったベルジェの言葉に驚いてしまう。

真剣に此方を見つめている彼の瞳はゆらゆらと揺れている。

答えづらい問いだな、とは思いつつ、この状況では誤魔化すことも出来ないだろう。


(もしベルジェ殿下に好きだと言われたら……)


うーん、と唸りつつ考えていると隣から熱い視線を感じていた。

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