第48話
そして繰り返しの訓練の甲斐あって少しずつ良くなってきた。
効果を試すために「パーティーの打ち合わせ」と称してモイセス達、三人をカイネラ子爵邸に呼んでは練習の成果を試していた。
しかし本人達の前では中々上手くいかないようで、次の日はどんよりとした雰囲気でハーブティーを啜っている二人を見ることが出来た。
(恋かぁ………)
何度失敗しても懸命に努力をしている二人はキラキラと輝いて見えた。
最近ではモイセスとルビー、リロイとキャロラインが共にいる事が増えた為、自然とベルジェと一緒に過ごす事が多くなった。
(まさかお姉様の相談を受ける為にカイネラ邸を訪れていたなんて……)
どれだけお人好しの王太子なんだと思うのと同時に、ルビーのヒロインとしての素質に震えていた。
だが、本人はしっかりとモイセスが好きと公言しているので、このまま小説のようにベルジェと結ばれる事はもうないのだろう。
「ジュ、ジュリエット嬢……大丈夫か?」
「あ……すみません、考え事をしていて」
「いや、いいんだ!こちらこそすまない……その、考え事の邪魔をして」
今日はベンチに横並びに座って話をしていた。
目の前には相手を懸命に振り向かせようと頑張るキャロラインとルビーの姿があった。
最近では二人の恋を応援するのと同時に羨ましいと思っていた。
「…………恋っていいですね」
「へッーーーー!?」
声が裏返ったベルジェを見ると彼は何故かソワソワとしている。
頭にハテナを浮かべつつ、ずっと言いたかった事を口にした。
「ルビーお姉様の事、ありがとうございます」
「な、何を!!?」
「ベルジェ殿下に相談に乗って貰っていたと、そう聞きました。本当はモイセス様をお慕いしていたと……お姉様から直接聞いたのです」
「そ、そうなのだな」
「ベルジェ殿下はやっぱり優しいですね。何度も屋敷に足を運んでくれたのはお姉様の為ですよね?」
「ぁ……」
「ありがとうございます」
「…………っ」
難しい顔をしているベルジェは、いつものように何かを話そうとして口を閉じてしまう。
気まずい沈黙が訪れて、何か話題を探しているとキャロラインがこちらに向かって小さく手を振った。
それを見て同じように手を振り返す。
そんな時、ベルジェは重たい口を開いた。
「ジュリエット嬢、こちらこそキャロラインの事……本当にありがとう」
「え……?」
「父上と母上も、ジュリエット嬢にとても感謝しているんだ」
「私に、ですか……?」
「ああ……食事の時に半分以上はジュリエット嬢の話題なんだ。君の事が大好きで、いつも話しているから父上と母上も君のお陰でキャロラインが変わったんだって思っている」
そう言ってベルジェはとても嬉しそうに笑った。
ツンとした口調は変わらないが、キャロラインの変化は目覚ましいものがあった。
それと同時にリロイの態度も柔らかくなり、二人はどんどんといい方向に向かっているような気がした。
あの激しく言い争いをしている姿から一転、意外にもリロイとキャロラインは順調に仲を深めている。
今も向き合って手を握りながら話している。
まるで花が開くような満面の笑みは見ている此方が幸せになる程だ。
「それはキャロラインが自分で頑張ったんですよ」
「いいや。ドレスを買いに行った時からキャロラインは憑き物が落ちたように明るくなった。もっと早くお礼を言うべきだったんだが…………すまない」
「役に立てたのなら何よりです」
「最近……リロイも嬉しそうなんだ」
「良かったです」
そんな時、ふと気になってベルジェに問いかける。
「ベルジェ殿下は恋をしているんですか?」
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