第47話
「……はい、何でしょうか」
「だから……ジュ、ジュリエットと、呼んであげてもよくってよ!!!」
「え?」
「これからは公の場以外ではキャロラインとお呼びなさい!!いいわねッ!?それから普通のおっ、お、お友達のように喋りなさいッ」
「あ…………はい。じゃなくて、分かったわ。キャロライン」
「っ、なかなかいいじゃない!わ、わたくし達お友達だから、一緒にドレスを選んであげますわ」
人一倍ドレスにこだわりを持っているキャロラインは本当は令嬢達とドレスについて話したいと思っていたが、近付けば「我儘王女が来た」と逃げられて、話せたとしてもマウントや自慢をされるのではと引いてしまうそうだ。
それでも王女としての威厳を保つ為には致し方ないと思っていたようだ。
「ふふっ、ありがとうございます!」
「い、行きますわよ!!」
先に到着していたベルジェとリロイと合流した。
心配していたのかハラハラと右往左往していたベルジェは、キャロラインと仲良さげに話す姿を見て、安心したようにホッと息を吐き出した。
リロイは見たことのない優しい笑みを浮かべていた。
四人で店に入ったものの、ドレスはベルジェではなくキャロラインが選んでくれた。
どうやらずっとお揃いのドレスを着る事に憧れていたらしく、言い訳しつつも何だかんだ嬉しそうに同じドレスを選んでいた。
王家御用達のドレスショップで子爵令嬢がドレスを選び、尚且つ王女と色違いという、まさかの事態だったのだが、この時はさして気にする事はなかった。
それからというもの……ベルジェとモイセスよりも頻繁にキャロラインが屋敷に来るようになった。
ルビーを加えて三人でお茶をして仲を深めていった。
回数を重ねていく度に自然とキャロラインの高圧的な態度も柔らかくなっていた。
そしてキャロラインがリロイの話と惚気を何度か話していると、徐にルビーが気持ちを吐き出した。
「わ、わたくし……本当はモ、モッ、モイセス様が好きなの!!!」
「ーーーッ!?」
「ずっと昔から……お慕いしていて」
可愛らしく顔を真っ赤にしたルビーの衝撃的な告白に色々な意味で驚いていた。
そして……序盤でジュリエットが斧でグサリとしてしまう騎士というのは、もしかして、もしかしなくても……。
(…………モイセス様!?!?)
あの日……マルクルスを連れて行ったのはモイセスだった。
あの時、怒りで忘れていたが、物語ではルビーを守り死んでいったベルジェの騎士というのはモイセスを指すのだろう。
そしてルビーがずっと片想いをしている相手がモイセスだとしたら、大好きな妹が愛する人を……という最悪な展開である。
そこに居合わせたベルジェは、たとえ好きな人が居たとしてもルビーの心情が気になり、支えたいと思う理由も頷ける。
そしてジュリエットが斧を持たなかった事により、本来は退場する筈の『モイセス』と『ジュリエット』が一緒に仲良くお茶をするというよく分からない展開になっていたようだ。
物語最大のネタバレに放心していると、横でキャロラインが納得したように頷いている。
「そうだと思ったわ」
「!?!?」
「むしろ、どうして気付かないのよ?ジュリエットは、にっぶいわね……」
「えー…………」
突如として投下されたルビーの爆弾発言を理解するのに質問も併せて大分時間を要した。
しかし『今までベルジェには相談に乗ってもらっていた』と聞いて、どこか腑に落ちる部分があった。
それからルビーはモイセスの前で吃らずにキチンと話せる練習を始めた。
恋バナで盛り上がる二人を見ながら、ゆっくりとお茶を啜る毎日……。
二人に「好きな人は居ないのか」と問われて「居ない」と答えると、二人は「可哀想」「報われないわ」と言いながら何かをコソコソと話していた。
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