第39話

そして先程からニヤニヤとしているリロイとイライラしているキャロラインに挟まれたベルジェが膝に手を置いて小さくなっている。

その隣のソファーでは過去最高にモジモジとしているルビーと心配そうにベルジェを見ているモイセスの姿があった。


やはりキャロラインの気持ちはリロイにあるようで、時折熱い視線を送っている。

そしてルビーの視線は何故かベルジェではなく、ずっとモイセスの方を向いているような気がして首を傾げた。


(もしかしてルビーお姉様はモイセス様が好きなのかしら……?いや、でもそんな筈は……)


それならば何故、ルビーは「モイセスと一緒に過ごしたい」と言わなかったのだろうか。


(ベルジェ殿下に好意を寄せられていて言い辛いとか?でも、もしモイセス様が気になっているのなら毎回、ベルジェ殿下と過ごしたりしないわよね?)


ルビーは長年片想いしている相手が居たという一途でピュアなヒロインだった。

そんな気持ちを乗り越えるようにベルジェと愛を育み、結ばれるのではなかったのだろうか?

純粋で応援したくなる要素があり、尚且つ美し過ぎる容姿を鼻にかけずに気さくな性格である事。

そして様々な困難に立ち向かっていくルビーの姿はヒロインに相応しいのだろう。


そんな時、苛立ちが滲む甲高い声が響く。



「もう!!まだ準備が出来ませんの!?わたくしは紅茶には砂糖を三つとミルクがないと飲みませんからッ」


「キャロライン……!ここは城ではないのだぞ」


「そうそう。僕達に合わせるようにタイミングを窺っていたし、兄上達は思ったよりも来るのが早かったんだから準備は整っていなくて当然だよ」


「なっ……!この位素早く対応出来て当然ですわ!」


「それにキャロラインが勝手に付いてきたんだろう?我儘過ぎるのは良くないよね」


「っ!!?ま、まぁ……少しくらいなら我慢しますわよ!仕方ありませんわねッ」


「嫌なら帰れば?」


「なっ……!!?」



不穏な空気を察して席を立つ。



「わたくしは準備が出来たか見てきますね……!」


「すまない、ジュリエット嬢。キャロラインは普段はとても素晴らしい淑女で我儘は言わないのだが、人前に出るとどうもこんな風に……」


「お兄様ッ!!お黙りになって」


「だが……!」



今度はベルジェとキャロラインが言い争っている。

先程のキャロラインの要望も伝えなければと思い、急いでサロンから出た。


(……何なのかしら、この展開)


それから緊張し過ぎて戸惑う侍女達にテキパキと指示を出していく。

そして準備が出来たことを伝えるためにサロンに戻ると、どんよりと落ち込んでいるベルジェ、大爆笑しながら腹を抱えるリロイ、更にイライラした様子のキャロライン。

頬を真っ赤に染めているルビーと戸惑っているモイセス……先程とは少し様子の違う五人の様子を見ながら会場に案内したのだった。


ーーーその後


椅子に座りながらズーンと落ち込んでいるベルジェは、悪い笑みを浮かべたリロイから「ジュリエット嬢は今回はパートナーなしで参加するみたいだよ」と言われて、更に落ち込んでいるとも知らずにモイセスと話をしながらハーブティーを飲んでいた。


文句を言っていたキャロラインも不満そうではあるが紅茶を飲みつつ、ルビーと何やら話しているようだ。


その後、此方にやって来たリロイとモイセスのバーズ兄弟に挟まれていた。

「ジュリエット嬢は兄上とこれだけ堂々と話せるなんてすごいね!」と、キラキラとした瞳を向けられている度に、キャロラインのナイフのような嫌な視線がグサグサと背中に刺さる。

モイセスはリロイに「程々にするように」と釘を刺しているが、リロイは全く気にする様子はない。


何故か質問責めされつつ、モイセスに庇われながら適当に会話をしていると、落ち込んでいるベルジェに視線を送ったリロイが悪い笑みを浮かべながら呟いた。



「……ねぇ、ゲームをしない?」

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