第38話


動揺して唖然としているベルジェの元に行って手を伸ばす。



「!!!」


「ベルジェ殿下、大丈夫ですか?」


「ぁ……」


「どうぞ」



控えめに伸ばされたベルジェの手を掴んで立ち上がるのを手伝った。

顔を真っ赤にした彼が「……すまない」と言って手を離そうとするが、そのまま手を両手で包み込み、握ったまま答えた。



「ジュ、ジュリエット嬢……!手が……っ!」


「ベルジェ殿下、ありがとうございます」


「………え?」


「今のベルジェ殿下、とてもかっこよかったです……それに嬉しかったので」


「ーーーッ!?!?」



自分で言っていて恥ずかしくなり、ほんのりと頬が赤くなるのを感じながらベルジェを見上げた。

人間味のある部分が見えるたびに彼の印象が変わっていくような気がした。


そんな中、後ろで何を言っているかは分からないがボソリと呟く声が聞こえた。



「あーあ……完全にノックアウトだね。もしかして僕、当て馬??」


「ですわね。間違いありませんわ」


「えー……でもあのベルジェが尻餅付くなんて、今日は本当に来た甲斐があったなぁ」


「………恋愛面がこんなに不器用だったなんて知りませんでしたわ」


「ジュリエット、ベルジェ殿下……良かった」



リロイとキャロラインは初めてみるベルジェの一面に驚き、ルビーはベルジェの奮闘に手を合わせて喜んだ。

意味が分からないまま佇むモイセスと、必死にリロイとキャロラインの口を塞ごうとするベルジェを見ながら、モイセスと目を合わせて首を傾げた。


このまま立ち話も良くないと思っていたが、侍女達もチラチラと窺うように此方を見ている。



「あの……皆様、折角ですしお茶でもいかがでしょうか?」


「あ、あぁ……」


「でも……お姉様とベルジェ殿下はいつものように二人きりになりますか?」


「え…………?」


「…………へ?」


「!?」


「ブッ!!アハハハーー!!」


「えっと、お姉様をパーティーのお誘いに来たのでしょう?皆の前では誘いづらいのかと……」


「あ、いや……違うんだ」


「違うんですか?」


「そのッ!あの……そうなんだけど、少し違うというか……」



先程とは違って、いつものように吃り始めたベルジェにホッとする。

ベルジェを異性として強く意識したのを上手く誤魔化せただろうか。


(お姉様の前で、良くなかったかしら……)


平然を装いつつも心臓はまだバクバクと音を立てていた。



「その話も含めてさ、今日は皆んなでお茶をするのはどうかな?」


「……?」


「偶にはいいだろう?僕はまだまだ君たちの事をよく知らないし、ルビー嬢もその方が嬉しいでしょう?」


「あっ、はい……!」


「!!」



その言葉にピクリとキャロラインが反応している。

初登場にも関わらず、まるで自分の家のように仕切り始めたリロイを見て苦笑いをした後に侍女達に合図を送り準備を頼む。


一旦、サロンに通して準備が出来るまで待っているとキャロラインの「全く、なんでわたくしがこんなところでお茶をしなくてはなりませんの?」「狭苦しい部屋ね」と文句を言っている。

その後、ベルジェから小さく注意が入る。


恐らくこの様子を見るに、キャロラインはリロイと一緒に居たいが為に付いてきただけなのだろう。

しかし先程リロイに誘いを受けたせいから分からないが、ヒシヒシと視線を感じていた。


サロンには、絶世の美女ルビーと完璧王子ベルジェ、我儘王女キャロラインと公爵家の令息であり令嬢達にも大人気なリロイ、そしてベルジェの近衛騎士で公爵家の嫡男であるモイセス…………錚々たるメンバーにカイネラ子爵家の使用人達の間に衝撃が走っていた。


妙な緊張感は此方にまで伝わってくる。

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