第33話


(推せる……!!!)


今ではモイセスにベルジェの話を聞くたびに推しスイッチが入り、勝手にベルジェのギャップに萌えていた。

今ではベルジェの話を聞いては「可愛いな」と思う日々が続いている。


モイセスが「このお茶はベルジェが好きそうだ」「甘いものが好き」と聞いた情報から、ミントティーとクッキーをプレゼントしてみたのだが喜んでくれたようだ。


嬉しそうに手を振るベルジェと、それを優しい目で見ているモイセスを見送った。

チラリと横を見ると、顔色が悪く今にも倒れてしまいそうなルビーの姿があった。

やはりベルジェにクッキーを渡したのは良くなかったかもしれないと思いつつ、言い訳をする為に口を開いた。



「お姉様、ごめんなさい。別にベルジェ殿下がどうとかはないんだけど……」


「ジュ……リエット、い、ぃ、いま……モイセス様とっ」


「モイセス様……?」


「だきあっ……キッ、きっス……!」


「き……?モイセス様の頭に葉っぱがついていたから取っただけだけど」


「…………!!」


「それがどうかしたの?」



ルビーの体からフッと力が抜けた後に「あ……そうなの」と小さな声が聞こえた。

ベルジェとルビーの角度から見るとモイセスと抱き合ってキスをしているように見えたのだが、本人達はそんな事を知る由もなかった。


そんな時にテーブルを片付けに来た侍女達が「あっ……!」と声を上げる。



「ジュリエットお嬢様ッ!食べ過ぎですよ!!」


「だって美味しいんだもん~」


「ちょっと……!こんなに甘い物ばっかり食べていたら太りますよっ!?」



それと同時にジュリエットが「やば~」と言いながら走り出す。



「あっ……!ジュリエット」



そのままジュリエットは侍女から逃げるように走り去って行き、侍女達もジュリエットを追いかけていく。

一人取り残されてルビーはモイセスとジュリエットが過ごしていたテーブルを見つめていた。

空っぽのカップが二つ……それにあんなにも仲睦まじく話す様子を見て、今までにない苦しい気持ちが湧き上がってきて痛む胸元を押さえた。


(ジュリエットが羨ましい……)


マルクルスとのあの一件から、ジュリエットは付き物が取れたかのように明るく天真爛漫で愛嬌たっぷりの少女に生まれ変わった。

侍女達とも仲良さげに話している姿を最近ではよく見掛けていた。


以前は冷たい言葉や鋭い視線をずっと向けられていたのに、今では距離は感じるものの普通に話してくれるようになった。

それはとても喜ばしい事だったが、それと同時に何も変われずに、モイセスのまえでもダメダメな自分が嫌いになりそうだった。


自分の容姿が異性の興味を惹きつけてしまい、それが元でジュリエットとの仲も最悪なものだった。

令嬢達からは次々と嫌われていき、唯一の友人でもあるアイカにもこう言われていた。


「貴女は何も言わない方がいいわ」

「自分から近付いたら、もっと嫌われるわよ?」

「下手に刺激したらトラブルになるかもしれないわ」


利用しようと近付いて来る令嬢も居たけれど、話せる事が嬉しくて仲良くしようとするけれど、結局は理由も分からないまま去っていく。

だんだんと令嬢達の友人を作るのを諦めるようになっていった。

それに彼女にモイセス様の事を相談しても……。


「貴女にモイセス様は無理じゃないかしら……?勿論、ルビーの事を思って言っているのよ」

「相手の迷惑になってしまうわ。そういう所はしっかりと配慮しなくちゃ……ね?」


そう言われ続けて、次第にアイカの言う通りではないかと思っていた。


高望みしている事は分かっていた。

それでもモイセスの姿を見る度に心に火が灯る。


今までは自分の想いに蓋をしたまま去ろうと思っていた。

けれど頑張ってジュリエットに振り向いてもらおうと奮闘しているベルジェを見ていると、気持ちを抑えられなくなっていく。


(…………わたくしは、本当にこのままでいいの?)

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