第32話
「あ……!」
そう声を上げた瞬間に、モイセスが何事かと顔を上げた。
「どうし……?」
「わっ……!」
「……!?」
至近距離で重なる視線……いつもは鋭い視線のグリーンの瞳が見開かれているのを「綺麗だな」なんて呑気な事を思いながら見ていた。
体はピタリと固まったように二人共、動かなかった。
先にモイセスが声を上げる。
「す、すまない……!」
「いえ……こちらこそすみません」
「葉は?」
「え……?」
「取れたのか?」
「今取りますね…………はい、取れました!」
「…………ありがとう」
「ぷっ……」
「……ははっ」
このハプニングが起きた事がおかしくて、二人で顔を合わせた後に笑い合っていた。
どうやらモイセスも同じ気持ちのようだ。
しかし目の前では自分達よりももっと大変な事が起きていた。
「ーーーはっ、ばっ!!モイ、それ!?ッ、な!?」
「……………………!」
まるでこの世の終わりの如く青褪めた顔をしていその場に立ち尽くしているルビーと、それとは逆で顔を真っ赤にして吃りまくっているベルジェが此方を指差しながら何かを伝えようと口を開いたり閉じたりを繰り返している。
そんな様子を見て、二人で目を合わせて首を傾げながら何事もなかったように体を離した。
「はっ……今、いまッ、ジュリエット嬢と……!」
「……?ああ、なるほど」
何を思ったのかモイセスはそっと手を取り「ジュリエット嬢、ありがとうございます」と言った。
それがまるで物語に出てくる王子様のようで「おー」と言いながら感動していた。
モイセスはその反応を見て「何だそれは」と、また笑っている。
どうやらモイセスは葉を取ってもらったお礼をするようにベルジェに言われていると勘違いしたようだ。
「モイセス様、貴族みたいでカッコいいですね」
「……私は一応、貴族だが?」
「プッ……!!」
「おいおい」
「……………」
「……………」
二人は彫刻のように固くなって動かなくなってしまった。
そんな中、モイセスがベルジェに声を掛けた。
「ベルジェ殿下、そろそろ次の公務に向かおう」
「…………。はい」
トボトボと歩いていくベルジェの後ろ姿を見送りながら手を振った後にハッとする。
そして、ある物を持って二人の背中を追いかけた。
「あの、ベルジェ殿下……!」
「……?」
今にも泣き出しそうなベルジェが振り向いた後に、いつものシャキッとした姿に戻る。
(可愛いなぁ……)
このわざとなのかと思える程に見え透いた反応が可愛いのだ。
何にショックを受けているのかは分からないが、気にする事なくベルジェにある物を渡す。
「コレ、良かったら……」
ベルジェに渡したのは可愛らしくラッピングされた袋だった。
不思議そうにそれを見つめている。
「モイセス様から聞きました。ベルジェ殿下は甘いものが好きだと聞いたので、私が一番好きなクッキーを……!お口に合うか分かりませんが、どうぞ」
「………ッ!?!?」
「あとモイセス様お気に入りのミントティーの茶葉も入れておきました」
「ぁ……」
「おい、気に入ったとは言ってないぞ?」
「あははっ!」
ベルジェはその袋を見ながら肩を震わせている。
その反応を見て、やはり王太子にクッキーは失敗だったかと思っていた時だった。
「ジュリエット嬢、ありがとう……!」
「…………!はい」
「……大切に食べるよ」
はにかむように笑いながら、ラッピングされた袋を大切そうに持ったベルジェの表情を見て胸がキュンとときめいていた。
(さすが……笑顔も可愛い)
ルビーの手前、迷ったのだが渡して良かったようだ。
モイセスとの会話の大半はベルジェの話だったりするのだ。
そしてベルジェの意外な一面を教えてくれたりするのだが、完璧過ぎる見た目と性格からは想像出来ないギャップにキュンキュンしていた。
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