第22話
マルクルスとは直接関わった事がないが、嫌な気持ちが込み上げてきた。
微笑んだルビーにマルクルスは先程の鬼のような表情が一瞬で引っ込んで態度が急に変わり、しおらしくなる。
よく見るとマルクルスのルビーへの態度は、かなり分かり易いものがあるのではないだろうか?
(この男は本当にジュリエット嬢が好きなのか……?)
とてもそうには見えなかった。
「二人とも何をしていたの……?まさか喧嘩?」
二人が普段からどういうやりとりをしているのか、ジュリエットがどう思っているのかは分からないが、言い争う事は珍しいのだろうか。
すると、マルクルスが焦った様子で声を上げる。
「っ、そんな事ありませんよ!」
「でもジュリエットは"助けて"と……」
「この僕がルビー様の大切な妹を傷つけることなど有り得ませんよ!ははっ」
明らかに様子がおかしい。
マルクルスがジュリエットの腕を引く。
「さぁ、行こう……ジュリエット。向こうでゆっくりと話そうか」
「嫌よッ!!」
「ジュリエット、ルビー様を困らせてはいけないよ」
ジュリエットは必死に抵抗する姿を見て二人の間に入ろうとした時だった。
「ーールビーお姉様、聞いて下さいッ!マルクルス様は先程、わたくしと婚約したのはルビーお姉様に近付く為だって言ったんです!!!最低のクズ野郎なんです!!」
「え……!?」
「なっ……違います」
「許せませんッ!今すぐに婚約を解消したいのです!手伝って下さい」
途中で被せるようにして声を上げたジュリエットは、ルビーに必死に訴えかける。
それは婚約者であるマルクルスが、ルビーに近付く為にジュリエットを利用したという内容だった。
しかし先程、ルビーとの会話内容を思い出しながら思っていた。
あわよくばジュリエットに近付けたらとルビーを利用しようとした自分の事を……。
『最低のクズ野郎』『許せません』
グサグサと次々に刺さる鋭い矢のようなジュリエットの言葉に大ダメージを受けながらフラリとよろめいた。
(たまたま未遂ではあったが、俺もジュリエット嬢に近づく為にルビー嬢を利用しようと……!)
そして顔色の悪くなったルビーは口元を押さえながらチラリと此方に視線を送っている。
その視線は『助けて』と訴えかけているように思えたし、実際にそうしようと思ったが、先程のジュリエットが言った言葉がぐるぐると頭を巡っていた。
(俺は……なんて最低な奴なんだ)
ジュリエット嬢はポカンとしながら此方を見ているが、それすら分からない程にショックを受けていると目の前で繰り広げられている口論に現実に引き戻される。
「嘘だッ!ジュリエットが僕を愛していないと訳の分からないことを言い出したから話し合おうと思っただけなんです!!」
「マルクルス様はルビーお姉様を一番に考えてるって言ったでしょう!?そんな相手と婚約関係は続けられないわ!わたくしを利用してお姉様に近づくなんて最低よッ!嘘つき……!裏切り者ッ」
エコーのように脳内に響き渡る『最低』『嘘つき』『裏切り者』と言われて倒れそうになるのを堪えていた。
ガンガンと痛む頭……初めて感じる絶望感と挫折に打ちひしがれていた。
「……ッ、僕のことが好きだからいいじゃないか!!何度も愛してるって言っていっただろう!?ルビー様を幸せに出来るのは僕しか居ない!これは決定事項なんだッ!」
「!?」
「僕の婚約者になれただけでも有難いと思えよッ!!売れ残りだったくせに」
「…………は?」
そんな時、ジュリエットがマルクルスに掴みかかる勢いで手を振り上げたのを見て反射的に腕を掴んだ。
「ジュリエット嬢……落ち着いて下さい」
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