第20話


「だからもし……もし殿下があの子の事を気に掛けて下さっているのなら、わたくしの代わりにジュリエットを守ってください。今まではアイカ様にお願いしてばかりいたけれど、ベルジェ殿下なら……」


「……ルビー嬢、貴女は」


「わたくしのせいで、あの子には随分と迷惑を掛けてしまって」


「…………」


「烏滸がましい願いだと分かっています。でもわたくしはジュリエットが大好きだから」


「その気持ち……俺もよく分かる」


「え……?」


「俺も、可愛い妹が居るのだが……でもあまり好かれていないんだ。いつも『お兄様が来るとめちゃくちゃになるの!あっち行って』って言われてしまって」


「分かりますわ!わたくしもよくそう言われて……」



その後は"妹トーク"で盛り上がりながら二人で笑い合った。

何故か異常な程に一致する二人の環境に驚きつつも話が弾む。

ルビーとは共通点ばかりだと思った。


少し離れた場所でカイネラ子爵達はホッとしながら見ている事にも、ジュリエットが窓の外から見下ろしているとも気づかずに……。


そして話はルビーがモイセスを気になっている理由についてに流れていく。



「幼い頃に街に侍女と遊びに行ったのですが、その時に盗賊に襲われて、そのまま連れ去られてしまいました。とても怖くて震え上がっておりました。その時に颯爽と現れて助けて下さったのが若かりし頃のモイセス様なのです」


「……!!」


「モイセス様は覚えていないかもしれませんが、わたくしは、あの柔らかいブラウンの髪と優しいエメラルドのような瞳をずっとずっと……覚えておりますの」



ほんのりと頬を赤く染めたルビーは、本当にモイセスに想いを寄せているのだと思った。



「その後、泣き止まないわたくしを不器用ながら、ずっと励まして下さいました。家まで送って下さる間、悲しい思いが少しでも和らぐようにと……」


「…………そんな事が」


「あの時から、わたくしの心の中にはずっとずっと……モイセス様しかおりません」



それからカイネラ子爵達はかなり過保護になったようだ。

それがジュリエットが更に自分を妬む要因ではないかとルビーは語った。

だが、それも少し違うと思った。


パッと見ると、ルビーが令息達に対して来るもの拒まずな態度を取ることや婚約者を作らない事にも原因があるのではないかと、何気なく問いかけてみると「それはベルジェ殿下と同じ理由ですわ」と答えた事に目を丸くした。



「過度に否定すれば、大きな恨みを買う場合もありますわ……そうしたら矛先が家族に向く場合だってあります」


「!!」


「ベルジェ殿下だって、王家の為にと我慢なさるでしょう?それと同じですわ。わたくしは子爵家の生まれですから……粗相があれば直ぐに押し潰されてしまう」


「そう、だな……ルビー嬢の言う通りだ」


「それにあの方達は、わたくしが何を言っても都合よく解釈されてしまいますの」


「すまない。その通りだ。俺も王家の評判を下げないように動いている。配慮が足りない質問をしてしまった」



その言葉にルビーは微笑みを浮かべながら小さく首を横に振った。

けれど此方は王家でルビーは子爵家……身分が違えばそれだけで大変だっただろう。

ルビーは様々な経験と配慮を身に付けて家族を守る為に、気を配っているのだと思った。



「大丈夫ですわ。あまりにも執念深い方には羽虫だと思うようにしておりますの」


「羽虫……」


「他の令嬢達はその事を羨ましいと言うけれど……ずっと想いを寄せたまま、話しかける事も出来ずに、名前すら覚えてもらっていないわたくしの何が羨ましいとうのでしょうね」


「…………ルビー嬢」


「申し訳ございません。同じ気持ちを共有出来る方が初めてで、つい嬉しくなってしまって余計な事を言ってしまいましたわ」


「ルビー嬢……その、ルビー嬢は知っているかどうかは分からないがモイセスは……っ」



ルビーがモイセスの事情を知っているのか気になって問いかけた。

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