第19話
それに今もジュリエットと面と向かって話す事を思い浮かべるだけで、じんわりと汗が滲む。
「それは恐らく……ジ、ジュリエット嬢に嫌われたくなくて」
「ですが、連絡もしていないのに嫌うもなにもありませんわ」
「確かに、その通りだと思う。何故かは分からないが、直接……話しかけるのは心の準備が必要だというか。恥ずかしかったんだと思う……」
改めて言葉にして吐き出してみると、自分の気持ちがよく分かった気がした。
カッと顔が真っ赤になるのを片手で覆い隠すように隠した。
「ふふっ……いつも完璧な殿下が意外ですね」
「ジュリエット嬢の前で完璧に振る舞いたかったのかもしれない。カッコ悪いところを見せたくなくて、それでだな……」
「そうでしたの」
ルビーはにこやかに笑った後、静かに頷いた。
やはり今までの令嬢達とは違って、ルビーからは熱い視線を全くと言っていいほど感じなかった。
だから本音で話せたのかもしれない。
「君を巻き込むような形になってしまって……本当にすまなかった」
ルビーに首を横に振って、悲しそうに眉を顰めた。
「わたくしも殿下と同じような理由で、この申し出を受けましたわ。気にしないで下さい」
「それは……」
「実は、わたくしも下心があったのです」
「……ルビー嬢も?」
「はい。だから殿下が謝る事ありません。わたくしの方こそ殿下を利用しようとした事、申し訳なく思っております」
彼女はそう言って深く深く頭を下げた。
下心とはどういう意味なのか、考えを巡らせても何も分からなかった。
けれど自分の兄妹はキャロラインだけだし、友人のリロイだろうかと考えてみるものの、ルビーが目的にするような人物は思い浮かばなかった。
「それで、あのっ……きょ、今日は、その今日、モッ、モイセス様は……!」
突然、挙動不審になるルビーの瞳は右往左往して、ブンブンと千切れそうな程に振っている手首に目が回ってしまいそうだった。
「ルビー嬢、少し落ち着いた方が……」
「はっ、はい!!!」
返事をした彼女は自らを落ち着かせる為か、紅茶をゴクリゴクリと音を立てて飲み干した。
呆気に取られていると、ルビーはモジモジしながら恥ずかしそうに口を開いた。
「本日、モイセス様は……何処にいらっしゃるのかなって」
「モイセスは馬車か門の近くで待機していると思うが」
「屋敷にいらっしゃっているのですかッ!!!?」
ガタリと勢いよく立ち上がったルビーの姿を見て驚きながらも頷いた。
ハッとした後に頬を赤らめたルビーは可愛いらしく咳払いをしてから再び椅子に腰掛けた。
この様子から、もしかしてこの顔合わせを受けたのは『モイセス』に会いたかったかではないかと推察出来た。
「もしかして……モイセスに?」
「はい……その通りです。どうしても……もう一度だけ、あの方の視界に映りたかったのです」
「……そうだったのか」
「申し訳ありません、ベルジェ殿下」
シュンと肩を落としたルビーを見て何故か妙な親近感を感じていた。
互いに目が合うと、おかしくて笑ってしまった。
「ははっ……似たもの同士だな」
「はい、そうかもしれません。思ったよりもベルジェ殿下が人間らしいというか……安心致しました」
「俺もだ。いつも人形のようだと……いや、良い意味だ!」
「フフッ、ありがとうございます。あの……ベルジェ殿下。宜しければ情報交換致しませんか?わたくし、モイセス様の事が知りたいんです」
「情報交換……?だが、ジュリエット嬢には婚約者が」
「えぇ……。でも何か嫌な予感がするのです。あの子には何度か言っているのですが聞く耳を持たないどころか"マルクルス様なら絶対に大丈夫だから"と言われていて」
「!?」
「…………本当は、今回の婚約も」
そう言ってルビーは言葉を詰まらせた。
彼女はジュリエットをとても心配しているのだと、そう感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます