第18話



「ベルジェ殿下、ようこそお越しくださいました!」


「お待ちしておりましたわ!さぁ、ルビー!殿下を案内して差し上げて」


「はい、お母様」



目の前には綺麗な仕草で会釈するルビー・カイネラの姿があった。

(人形のようだな……)

その姿を見て確かに美しいとは思ったが、ジュリエットの時のようなドキドキ感はなかった。


ルビーはキョロキョロと辺りを見回しながら何かを伺っているように見えた。

(……気のせいか?)

全く此方を気にしている様子もないが、自分ももしかしたらジュリエットに会えるかもしれないと、周囲が気になって仕方なかった。


何も喋らないルビーの代わりに、早口でよく喋るカイネラ子爵と夫人に促されるまま庭を案内される。

話を聞けば、ルビーがこうして誰かとの顔合わせに応じるのは初めてのことで、二人は想いが通じ合っているのではないかと遠回しに言いたいようだ。


「後は若い二人でゆっくりと」

「どうぞルビーを宜しくお願い致します!」


そう言われて中庭に案内された後に、侍女が紅茶を淹れて早足で去っていく。



「…………」


「…………」



特に二人とも何かを話すことはなかった。

いつもは相手が凄い勢いで話し始めるので、どうやって話しかけたらいいか迷っていた。

それにカイネラ子爵達とルビーの熱量は全く違うよう事だけは分かった。


(もしかしたら今のジュリエットの事を聞けるかもしれない……!あの噂を確かめたい!!)


ソワソワとした気持ちでいるとルビーと同じタイミングで言葉が重なった。



「今日、妹のジュリエット嬢は……」

「いつも一緒にいる騎士の方は……」


「「…………」」



何を言ったのかは聞き取れなかったが、照れながら俯くルビーの姿にハッとする。

カイネラ子爵達はあんなにも嬉しそうにしていたし、こうしてルビーは普段は応じない顔合わせに来てくれた。


(俺は……なんて事を)


サーッと波が引くように昂っていた気持ちが冷めていく。

ジュリエットの事を聞く為にルビーを利用しようとした事に、今更ながら罪悪感を感じていた。

よくよく考えてみると今までやろうとしていた行動には全く誠実さがないのではないだろうか。

このまま嘘をついたままではいけないと沈黙の中、静かに口を開いた。



「今回、此方から顔合わせを望んでおいて失礼な話なのだが、俺は……俺はジュリエット嬢について詳しく聞きたくて、君に連絡を取ろうとしたんだ。そしたら何故かこのような形に……」


「まさか……本当ですか?」


「あぁ、すまない……っ!俺の配慮が足りないせいでルビー嬢には……」


「いえ、いいのです。全く問題ありません」


「…………え?」


「むしろベルジェ殿下にそう言って頂けて嬉しいですわ」


「……?」



ルビーは落ち込むどころか瞳を輝かせている。

理由は分からないが、どうやら気持ちがジュリエットに向いている事を知っても問題ないようだ。

心の中でホッと息を吐き出した。



「ベルジェ殿下、宜しければ、わたくしに詳しく話して下さいませ。お力になれる事があるかもしれません」


「あ、あぁ……」



自分がジュリエットが気になっており、本当はジュリエットの事をルビーに詳しく聞こうとしてカイネラ子爵と連絡していた事を説明すると、彼女はコテンと首を横に動かした後に不思議そうに問いかけた。



「でしたら、どうして"ジュリエット"が目的なのだと父と母に連絡を取らなかったのですか?直接、ジュリエットに手紙を送る事だって出来ましたのに」


「え……?」


「このやり方では勘違いされても仕方ありませんわ。実際、ジュリエットはその間にマルクルス様と婚約をしてしまいましたから」


「…………ぁ」



その言葉を聞いて、今更ながら愕然とする。

何故ジュリエットが気になっていると伝えないまま、ルビーに連絡を取ろうと思ったのかは、恥ずかしいのもあったが、改めて問われると全く理由が分からない。

彼女の言う通りだと思った。


今ならばハッキリと分かるのに簡単なミスを犯した事に戸惑っていた。

ただ下準備がなければ会えないと強く思った事だけは強く覚えていた。

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