第16話


「ウフフ、何でもありません!どんな令息もベルジェ殿下には敵いませんのでご心配には及びませんわ」


「その通りですわ!!」


「そうではなく、二人の関係を……!」


「では、私達はこの辺で」


「ベルジェ殿下、頑張って下さいませ」


「影がながら殿下の事を応援しておりますから……!」


「あっ……!」



令嬢達は顔を合わせて頷くと、そのままそそくさと去ってしまった。

結果的に二人の関係がどこまで進んでいるのかは分からないままだった。

しかしマルクルスがどんな令息かは掴むことが出来たが、周囲に参考になるような人間は居なかった為、首を傾げる結果になった。


(自分が好き、自慢をする……)


けれどいくらジュリエットが気になっている相手のことを知っても、自分がそうなれる訳ではない。

やはり姉であるルビーに聞くべきだろうと思い直した。


(早くルビー嬢にジュリエット嬢の事を聞こう。好きなものを聞いて、それをプレゼントに持っていくのはどうだろうか。いや……いきなりプレゼントは良くないのでは?あわよくば、さりげなくジュリエット嬢とお近付きに……!しかし、ちゃんと話せる自信が……。ああ、どうしてこんなに考える事が沢山あるんだ……!)


頭の中でグルグルと考えては思い悩んでは考えていた。

こんなにも答えが出ないのは初めての経験だった。

もどかしい感情に驚きはしたが、同時に嬉しくてとても楽しいと感じた。


しかし無情な事に公務が立て続けにあり、カイネラ子爵とは手紙でやりとりをするのが精一杯だった。

予定を開けようとするものの、なかなか手が空かない。

やっと時間が空きそうだと知らせようと、先日届いたカイネラ子爵の手紙を開くと、思いもよらない事が書いてあった。


そこには『妹のジュリエットはラドゥル伯爵家のマルクルスと婚約しました』と書かれていたのだ。

『是非ともルビーとの関係を前向きに……』そんな内容が頭に入ってこないくらいショックを受けている自分が居た。


いつもならば、直ぐに返事を返していたところだが、ダメージが大きく『多忙故に、暫くは時間を作れそうにない』と返信を返して、手紙のやり取りを終わらせてしまった。


(俺は……こんなに不器用だったのだろうか)


初めて見えた自分の新しい側面に戸惑っていた。

周囲から完璧過ぎる、隙がない、どこか味気なく人間味がないと言われていたし、そんな自分しか知らなかった。

今は感情に振り回されて、何もかも上手くいかない。


それにジュリエットに婚約者が出来たのなら仕方ない。

もう諦めるしかない思い、無理矢理気持ちを切り替えた。


(大丈夫……またいつも通りだ。以前の自分に戻れる)


そう思っても胸の中のモヤモヤとした感情と違和感は拭えなかった。

種から芽が出たのに、伸びる前に枯れてしまった……そんな気分だった。

初めての挫折に心が痛んでいたが、それでも表向きは普通を装えてしまう事が寂しく感じた。


芽がしょんぼりと萎んだ後は、公務に打ち込む日々が続いていた。

忙しさに身を任せて心の痛みも和らいできたある日、予想もしなかった事が起こる。



「ーーーベルジェ、気になる令嬢が居るらしいじゃないか!!」


「は……?」



『今すぐに来い、緊急だ』と言われ、父に呼び出された。

何か粗相をしてしまったのかもしれないと急いで父の元に向かうと、緊急だと言っていた割には笑顔の父の姿があった。



「水臭いじゃないか!ワシに相談してくれたら良かったのに」


「あの、父上……どういう事ですか?」



バシバシと肩を叩かれて、何事かと問いかけた。



「とある令嬢達から聞いた。カイネラ子爵家の『ルビー』が気になっているとな」


「!?」


「カイネラ子爵にも聞いたら、手紙のやり取りまでしていたそうじゃないか」

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