第14話


「…………」


「恋愛相談ならば、別の方をお勧めいたします」


「…………恋」


「両陛下に話してみては如何でしょう?きっと喜ばれますよ。いやはや、あの小さかった殿下もすっかり成長なされて」


「これは、本当に恋なのか……?」


「それを確かめるためにも、もう一度会われてみては如何ですかな?」


「……………」



優しい笑みを浮かべている医師を見て改めて自分に問いかけた。


(俺は……ジュリエット嬢が気になっている、のか?)


自分が『恋』をしているなんて何度聞いても信じられそうになかった。

いつもキャロラインに「お兄様も少しは恋愛の事を勉強しておいた方がいいわよ」と、勧められた令嬢達の間で流行っている恋愛小説も読んではみたが、何処か別世界のように感じていた。


大抵は燃え上がるような恋が多かったが、こんなにも静かに始まる恋もあるのかと不思議な気分だった。


(まさか自分が体験するとは……)


扉の外で待っていたモイセスに医師に言われた事を話すと、いつも表情が動かない彼が目を見開いて驚いていた。



「なんと……!」


「これが、恋だとは思わなかった」


「…………ベルジェも成長したのだな」


「モ、モイセスはどうなんだ?その……恋を、した事は?」


「ああ、一度だけ」


「!!」


「恋だったかは、分からないがな……大切な人だった」



モイセスはそう言って悲しそうに瞼を伏せた。

握り込まれる手に力が篭る。

それを見てハッとして口をつぐんだ。

勢いのまま聞いてしまったが、モイセスに辛い記憶を思い出させてしまったようだ。



「…………すまない、モイセス」


「いや、構わない。私は命尽きるまでベルジェに仕えるつもりだ」


「だが、バーズ公爵家はどうする!?」


「リロイが居るから大丈夫だろう」


「……モイセス」


「この先、誰かを好きになる事も愛する事もない……そう決めている」


「…………」


「叶うならば、誰かを守って死にたい」



その言葉の重みと内情を知っているからこそ、何も言えなくなった。

彼の後悔が苦しいほどに伝わってくる。



「そんな顔をするな。ベルジェには私の分まで幸せになって欲しい」


「!!」


「それが今の私の幸せだ」


「モイセス、俺は……っ!」


「時には直感的に動くのも時には必要だぞ?私が言えた事ではないがな。国王陛下もお喜びになるだろう」


「少し、自分の気持ちを整理したい……」


「……分かった」



しかし考えた所で答えは出なかった。

そして、その行動を後悔したのはすぐの事だった。



「ジュリエット様とマルクルス様が、最近お二人でよく話しているそうですわ!聞きまして?」


「まぁ、あのマルクルス様と仲が良いという事?」


「そうなの」


「嘘でしょ……あのマルクルス様と!?」


「以前、話した事ありますけど御自分の自慢話ばかりで、わたくしは苦手でしたわ」


「けれど、ジュリエット様はかなりマルクルス様に入れ込んでいるみたいで……」


「まぁ、それは本当ですの?あの方のどこがいいのかしら?」


「あはは、失礼よ」


「ーーーッ!?」



お茶会での何気ない令嬢達の会話を聞いて、驚きに目を見開いた。


(ジュリエット嬢は、もしかして"マルクルス"が好きなのか……?)


それを聞いてどうしようもない焦りが込み上げてきた。

ジュリエットに仲の良い男性が居ると聞いて、今から自分がどう動いたらいいのか全く分からなかった。


(今更、声を掛けてもいいのだろうか……)


次の一手を考えようにも、ショックが大きく呆然としたまま立ち尽くしていた。



「ねぇジュリエット様って、ルビー様の妹の……?」


「えぇ、そうよ!わたくし、ルビー様を以前のパーティーで見かけたのですけれど、美し過ぎて話しかけられませんでしたわ」


「本当……羨ましいわ」



そんな時、ルビーの話を聞いてある事を思い付く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る