第13話



本当は「大丈夫か?」と、声を掛けたかった。

しかし今、ジュリエットの元に行ってしまえば彼女を困らせて逆に迷惑を掛ける事が分かっていたから一歩踏み出せなかった。


(……この気持ちは、なんだろう)


こんなにも感情が振り回される事など今までなかった。

心が熱くなったり、そわそわしたり、特定の人が気になったり……不思議な感覚に戸惑っていた。


そんな時、キャロラインから言われた言葉が頭を過ぎる。



「お兄様の氷のような心を動かせる令嬢なんているのかしら……?」


「氷って……言い過ぎじゃないか?」


「だってお兄様は、誰にも興味ないでしょう?」


「はは、そんな事ないよ」


「どうかしら……?」



その時、痛いところを突かれたと思った。

確かに誰かに特段、興味を持ったことなどなかった。

容姿が美しくても所作が綺麗でも家柄が良くても……良い意味でも悪い意味でも"同じ"だった。


きっと自分が愛情を持っていなくとも、結婚は出来るし何も問題なく夫婦になれる。

そう思った瞬間……怖いくらいに自分が詰まらない存在に思えた。


その後、ジュリエットは大きく息を吸ってからパンパンと気合いを入れるように頬を叩いた。

それから大声で「ヨシ!」という声が聞こえて、思わず笑ってしまった。

前向きな彼女が愛らしく映った。

考えている事が手に取るように分かってしまう……こんな令嬢は初めてだった。


「…………ふっ」


「ベルジェ殿下、どうしたのですか?」


「何か気になるものが?」


「ふふ、いや……何でもないよ」



周囲にいる令嬢達は微笑んだことをキッカケに嬉しそうに話しかけてくる。

しかし暫くは、可愛らしいジュリエットの姿を思い出しては元気を貰っていた。


最近はパーティーに楽しみが増えたせいか、いつもより景色が違って見える。

その事を帰りの馬車で近衛騎士でありリロイの兄でもあるモイセスに話していた。

ずっと幼い頃から側にいる彼を兄のように慕っていた。



「なんだか今日は嬉しそうだな」


「あぁ……最近、ある令嬢が気になっているんだ」


「……!そうか。国王陛下がお喜びになるな」


「いや、そういうのではないのだが……」


「??」



首を傾げているモイセスに、どう説明すればいいか考えていた。



「その御令嬢をみていると、胸が苦しくなったり、モヤモヤしたり…………上手く説明出来ないのだが、とても気になるんだ」


「…………!」


「こんな事、初めてでどうすればいいか……」


「ベルジェ……それは」



顎に手を当てながら真剣な表情をしているモイセスの姿を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。

そのまま言葉を待っていると……。



「一度、医師に診てもらった方がいいのではないだろうか?」


「!?」


「何かよくない事があるのではないか?」


「…………。確かに、そうかもしれない」


「すぐに診てもらおう」



モイセスにで本気で心配されたからか、パーティーの後に医師の元へ向かった。

先程、言った事と同じ事を言うと、医師はカタリと聴診器をテーブルに置いて、眉を寄せて此方を見た。

なにか重大な病なのかもしれないと、前のめりになりながら言葉待っていた。



「ベルジェ殿下……大変言いにくいのですが」


「な、なんだ……?」


「…………」


「っ、早く言ってくれ……ッ!!一思いに!」


「…………それは」


「それは!?」


「それは……!!」


「ッ!!?」


「ーーーーただの恋ですな」


「コ、イ…………?」


「えぇ、病などではなく恋です。正しくは恋の始まりです。身体に異常はございません」


「…………」


「モイセス様も、なかなかに鈍いですから……」


「モイセスが……鈍い?」


「えぇ、モイセス様も令嬢達に慕われているのにも関わらず、持ち前の鈍感さド天然で色々とやらかしている猛者ですからな」

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