第12話
なんとかルビーを追い返したジュリエットは喜ぶのかと思いきや、今にも泣き出してしまいそうに顔を歪めた。
胸元に手を当てて苦しそうな表情で俯くジュリエットの元に行こうと足を一歩踏み出した時だった。
友人の令嬢らしき人物に声を掛けられた瞬間、嘘みたいにジュリエットの表情が切り替わった。
何故だか、その様子から目を離せなかった。
「ベルジェ殿下?」
「…………ぁ」
「こんな所にいらっしゃったのですね!」
「戻ってこないから心配致しました!!どうかなさったのですか?」
袖を引かれ、ハッとしながらも反射的に笑顔を作った。
いつの間にか令嬢達に囲まれていたようだ。
そのままジュリエットは人混みの中に消えていった。
次に開かれたパーティーでも王家主催のお茶会に参加した時も、ジュリエットを見つけては視線で追いかけていた。
初めは"キャロラインに似ている"から気になっているのだと思っていた。
けれど何かが違うのだと数を重ねるごとに理解したが、その感情の正体は分からないままだった。
そしてジュリエットが婚約者を探しているのだと気付いてからは気が気ではなかった。
令息達と良い雰囲気になるのを見る度に、モヤモヤとした気持ちを感じていた。
中にはあまり評判が良くない令息も居た為、居ても立っても居られなくなるものの、そこに行けない事にもどかしさを感じていた。
(ジュリエット嬢……!その令息はよくない)
そしてそこにルビーが現れると令息達の視線はジュリエットからルビーへと移ってしまう。
安心する反面で、ドレスの裾をつかんでブルブルと肩を震わして悔しそうに唇を噛んでいるジュリエットの姿を見ると、複雑な気持ちになった。
ルビーは「良かった」と、安心したように微笑んでいたが、ジュリエットは「どうして邪魔するの!?」と激怒している。
それを毎回見ていると、ルビーは何か理由があって話しかけているような気がしてならなかった。
(俺と同じ……?いや、まさか)
実際、自分目当てでキャロラインには様々な令嬢や令息が近づいてくる。
主に利用する為だったり、嫌がらせの為だったり……。
そして、それを受けて深く傷つくのは自分ではなくキャロラインなのだ。
(ルビー嬢は、それを防ぎたいのだろうか)
ジュリエットと同じように「邪魔」「顔を出すな」と、キャロラインに怒られるし、邪魔だと分かってはいるが、どうしてもキャロラインを守る為には自分が動くしかないと分かっていた。
父や騎士では守りきれない部分もあるからだ。
それに自分のせいで迷惑を掛けているからこそだろう。
心配で声を掛けずにはいられない。
そして立場や視線がある以上、この方法を繰り返す事しか対処法はなかった。
何故ならば、次から次へと湧き出るようなな彼等はやってくるからだ。
「心配なんだ」と説明してもキャロラインには分かってはもらえない。
ジュリエットが一方的にルビーに対して怒っているように見えてしまうが、本当は……。
そう思うと胸が苦しくなった。
(ルビー嬢はジュリエット嬢を守ろうと必死なのか……)
こういった目線で見ると双方の気持ちが良く理解できるような気がした。
令嬢達のアピールも全く気にならない程にカイネラ姉妹を視線で追いかけていた。
ビシッと指を差した後に、ツンとルビーに背を向けるジュリエットはドシドシと足音が聞こえそうな程に乱暴に歩いて去っていく。
すぐにルビーに蝿のように群がる令息達は彼女に気に入られようと懸命に励ましているが全く響いていないようで、ルビーは興味がないと言わんばかりに全てスルーしているようだった。
それから壁際に移動したジュリエットは背を向けてから顔を覆い隠すよう腕を上げて左右に動かしていた。
泣いているのだと、すぐに分かった。
今すぐにジュリエットの元に行きたいと強く思った。
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