第11話
そんなある日、いつものように令嬢に囲まれてパーティーを楽しんでいるフリをしていた。
そろそろ婚約者を……と言われていたが、とてもそんな気分にななれなかった。
「父上に呼ばれていたんだ」
少し休みたくなり、そう言うと令嬢達は名残惜しいとでも言うように甘い声を出した。
「ごめんね、また話そう」
当たり障りのない言葉を並べながら目立たないように会場の端を進んでいると……。
「お姉様はあっちッ!!!アチラに行って下さいませッ!!」
「あのね……聞いて、ジュリエット」
「令息達がお姉様が来るのを待っているじゃない!いいから私に近付かないで!!」
「でもジュリエットが心配で……」
「わたくしは忙しいのッ!!お姉様ってば、早く皆の所に戻ればいいじゃない!!」
甲高い大声と険しい表情が、まるで猫が毛を逆立てているようだと思った。
それがジュリエット・カイネラを初めて認識した瞬間だった。
彼女は「しっしっ……」と言って、姉であるルビーを追い払っていた。
ルビー・カイネラの噂は知っていた。
『ジークサイドの宝石』『天から舞い降りた天使』『美の化身』『女神が降臨した』
その美し過ぎる容姿と聖母のような優しい性格で令息達を虜にしていると聞いたことがある。
それは子爵令嬢ながらも自分の婚約者候補になる程に影響力のあるものだった。
優しげな笑みを浮かべるルビーは確かに美しい。
美しいけれど、心に響くようなものはなかった。
ただ洗練された仕草と、どこか詰まらなそうな表情と淡々とした受け答えは見覚えのあるものだった。
貼り付けたような笑み、穏やかで当たり障りのない返事。
美し過ぎる容姿に惹きつけられるように常に令息達が周囲を取り囲んでいた。
(何か……なにかが突っかかる。何故だろうか)
違和感を感じつつも、ルビーを追い払おうとブンブンと必死に手を振るジュリエットから目が離せなかった。
(可愛らしい御令嬢だな……)
ルビーのような強烈に目を惹く大輪の華のような派手さはないものの、小動物のように目は大きく細々と動く姿は愛らしく目を惹いた。
しかし全ての注目はルビーに向かうことだろう。
自分にもキャロラインという、目に入れても痛くない可愛らしい妹が居るのだが、自分なりに愛情を伝えているものの………今のルビーのように嫌がられる事が多々あった。
「お兄様がこっちに来たら、わたくしが目立たないでしょう!?」
「あっちに行って下さいませ!ただでさえお兄様目的の令嬢達が鬱陶しいのに!!」
「これ以上、公の場でわたくしに近付いたらお兄様と口を聞きませんわよ!?」
「わたくしは忙しいのッ!早く皆の所に戻ればいいじゃない!!」
昔は「お兄様、かっこいい」「お兄様、大好き」「お兄様とずっと一緒に居る!」と言ってくれていたのに、今はこんなにも避けられており悲しい気分だった。
しかし可愛い妹に何かあるのではと心配で心配で仕方ない。
昔のように仲良くなりたくて機会をうかがっているものの、全く上手くいかなかった。
ジュリエットとキャロラインの姿が重なって見えた。
近衛騎士であるモイセスの弟で昔からずっと一緒にいるバーズ公爵家のリロイとは腐れ縁で幼馴染であるが、その様子を見てはケラケラと笑っている。
そもそもリロイが悪戯してもキャロラインは怒らずに注意するだけなのに、ケーキやクッキーを持っていくと「お兄様は何も分かってない!!」と怒られるのは何故だろうか。
キャロラインのことを思い出しながらもルビーとジュリエットのやりとりを見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます