⑨救われた思い
「出来なくなったてどういう事だよ」
「……」
真人くんがこう言うのも無理ないだろう。そもそも真人くんは言ってしまえばおばあちゃんの後を引き継いだ『舞子』だ。
――でも、そもそも二人で舞をしていた事を知らなかった。
ひょっとしたら真人くんも知らない事がたくさんあるのかも知れない。
「正直僕も半信半疑だった。でも、見える人が減り舞子の人数が変わって手順が変わって……でもそれは時代と共に変わっていく仕方がない事だと思っていたよ」
そこまで言うとお兄さんは「でも」と言葉を句切った。
「……」
――思えば。
お兄さんはおばあちゃんが舞子していた事を知っている。ずっと知っているからこそ、違和感を持ったのかも知れない。
「この間行って分かった。なんで舞の人数が減ったのか『剣』がなくなったのか」
そこまで言うと、お兄さんは真っ直ぐ私を見つめる。
――なっ、なんだろう。
お兄さんも真人くんと「全く」と言っていいほど似ていないけれど、それでもかっこいい事には違いない。
――ただ「だから」というワケではないけれど。
そもそも「誰かに見つめられる」というのは緊張する。
「それは、あの『カタマリ』を集めるための避雷針にするためだってね」
「……?」
「?」
お兄さんは「やっぱりすごいね、久美子さんは」と言って笑っていたけれど……私と真人くんはお兄さんの言葉の意味が分からずポカーンとしていた。
「えーっと、つまり?」
「つまり、本来は自然に発生してそのままになってしまうかえでちゃんの言うところの『黒いカタマリ』を剣を避雷針代わり。つまり一カ所に集めるように仕掛けを作ったんだよ」
「なっ、なるほど?」
「つー事はよっぽどの事がない限りその『剣』に吸い寄せられるって事か」
「多分ね。そして舞の時にまとめて浄化。剣がなくなったのは……」
「避雷針の代わりにしたから……つー事か」
真人くんがそう言うと、お兄さんは大きくうなずいた。
「でもまぁ、結局こういう仕掛けを作ったのはやっぱり『人手不足』なんだろうけどな」
「そうだね。多分、久美子さんは自分の娘が『見えない』って知ってからずっと考えていたんだと思う。そしてそれに協力してくれる人も……いたんだと思う」
この事があまり大きな問題として上がらなかったのは多分、協力してくれた人たちの力だけじゃなくて……。
――みんな心のどこかでおばあちゃんと同じ事を考えていたのかも知れない。
「それでも取りこぼしはあるからね。そんな時は僕たちの出番になるのだけど」
ただ、お兄さん曰く「それでも昔と比べると相当減った」との事らしい。
「この方法によって救われた人はたくさんいると思う」
「……」
「でもまさか、時が経ってお孫さんに自分の事を辿られるとは……思ってもいなかったと思うけどね」
お兄さんがそう言うと、真人くんも「だな」とうなずく。
「まぁ、こっちも助かっているのは事実だ。全部が全部何もかも……なんてこっちも思っちゃいねぇだろうし、そこら辺も折り込み済みでそれに対する対策もしてあるところを見ると……相当頭が切れるみてぇだな」
「……」
真人くんが言っているのは多分『お守り』の事だろう。
「でも」
――じゃあ真人くんが転校した時に現れたモノも……。
それこそ「運が悪かった」と言われてしまえばそれまでの話だ。
「――俺が引っ越した原因は気にすんな。あれは俺の甘さが原因だ」
私の表情を見て、真人くんは私が何を言いたいのか分かったのだろう。
――口調はぶっきらぼうだけど。
それでもその中に感じる優しさが少し心地よく感じて……そんな真人くんに対し、私は泣きたくなってしまった。
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