④お兄さんの仕事


「……驚いたかな」


 お兄さんの話を聞いて、私の中で確かにその気持ちが強かった。


 ――だって、お兄さんは『祓う』事が出来る人だから。


 その事を仕事にしそうな物だ。だからてっきり私は「それを仕事にしている」と思い込んでいたのだ。


「……まぁ、中にはそういうヤツもいるけどな。でも、あんまりいねぇな。実際」

「そっ、そうなんだ」


 まるで私の気持ちを読み取ったかの様に言う真人くんに、思わず驚いてしまった。


「ん? ああ、そっか。かえでちゃんは僕が『祓える事』を使った仕事をしていると思ったんだ」


 お兄さんそう言われ、私は小さくうなずいた。


「でも確かに真人の言う通り仕事には……難しいかな。そもそも見えない存在だし、何かしら周りに影響が出るようになったらそれこそ一人じゃ手に負えなくなっちゃうから」

「そっ、そうなんだ」


 ――知らなかった。


 でも、黒いカタマリが成長して男の子に取り憑いていたのが私に襲いかかって来た時の事を思い返して見ると……。


 ――確かにもっと成長すると、一人じゃ無理……かも。


 いくらお兄さんが「祓える人」だったとしても。


「……あれ」

「ん?」

「じゃあお兄さんや真人くんが引っ越して来たのも仕事の関係?」


 ――そう考えれば……まだ分かるけど。


「あー」

「えーっと」


 しかし二人のリアクションは私の想像していたモノと違いなぜか言いにくそうにしている。


「どっ、どうしたの?」


「いや、なんでもねぇ。向井がそう思うんなら……それでいい」

「うん、そうだね」


「……」


 ――あ、コレ。これ以上聞いても何も教えてくれない。


 そんな二人の様子を見て私はそう思った。


 ――それに、きっといくら仲良くなったって言えない事はあると思うし。


「まぁ、僕としてはそんな事はより」


 お兄さんはズイッと私に顔を近づけた。


「本当の舞。見せて欲しいなぁって思うんだけどね」


「……あ」

「あ」


「二人とも、完全に忘れていたね」


 お兄さんの指摘に私は思わず笑ってしまい、真人くんはため息をついていたけれど、多分それは自分に対してだと……思う──。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「お、今日はここまでだな」


 ちょうど区切りが良いところでチャイムが鳴り、先生はチョークを置いた。


「……と、じゃあこのまま帰りの会始めるぞー」


 ──あ、やっぱり。


 授業が始まる前に先生がプリントなどを配っていたから「もしかして」と思っていた。


 ──でも、この方が早く帰れるから私としては良いんだけどね。


「はーい!」


 そしてみんなも私と同じらしく、元気よく返事をする。


 ──元気……いいな。


 むしろ今日一番元気がいいかも知れない。


「はぁ……なんでもう学校が終わるってタイミングでそんなに元気がいいんだ?」


 先生はあきれた様にため息をついていたけれど、早く帰りたいみんなの耳には届いていない様だ。


「ああ、そうだ」


 そんなみんなの態度にまたため息をつきつつ、先生は思い出した様に「東条!」と真人くんを呼んだ。


「この後少し残ってくれ」

「?はい」


 真人くんは心当たりがないのか、不思議そうに首をかしげていた。

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