③留守の理由


「どこに行ってたんだよ」

「ん? ああ、ちょっと郵便局に出したいモノがあってね。すぐに帰って来られると思っていたんだけど……ちょうどタイミングが悪かったみたいだね」

「郵便局?」


 そう尋ねると。


「うん。ちょうどポイントが集まってね。ほら、パンを買ったら付いてくる……」


 お兄さんにそう言われて私は「ああ」と納得した。


「え、お兄さんも集めているの?」

「おや? 『お兄さんも』って事はかえでちゃんもかい?」


 どことなくうれしそうに言うお兄さんに私は「私が……というより、お母さんが」と付け加えた。


「ああなるほど。でも、抽選じゃなくて応募者全員にもらえるからさ、本当にありがたいんだよね」


 少し照れくさそうに言うお兄さんに対し、真人くんは興味なさそうに「ふーん」と答える。


「俺はてっきり仕事関連かと思っていたけどな」

「?」


 ――仕事関係?


 私は真人くんの言葉に思わず首をかしげた。


 思い返してみると、今までお兄さんの仕事に関しては何も聞いてこなかった。もちろん「気にならなかった」というワケではない。


 ――何となく「聞いちゃいけないモノ」と思っていたし。


 お兄さんから言う事もなかったし、真人くんが言う事もなかったからあえて私から聞く事もなかった。


 ――だからかな。


 真人くんやお兄さんと知り合っていつの間にか「聞いちゃいけない事」だと勝手に私の中で決めつけていた。


 ――でも今なら……。


 この話の流れで聞いてもおかしくない……はずだ。


 ――だったら。


「お兄さんの仕事って……何?」


 思い切ってそう尋ねると……二人は無言のままお互い見つめ合っている。


 ――え、なっ。何。やっぱり……。


 そんな二人を見てしまうと「やっぱり聞かない方が良かった」と後悔して仕舞いそうになってしまう。


「ごっ、ごめんなさい。やっぱり今の――」


 私は思わず「なし!」と言いそうになったところで……。


「あれ、言っていなかったかな?」

「てっきり言っていたもんだと思ってたな」


 二人がそんな事を言うから、私は思わず「言ってないよ!」と大きな声で言ってしまった。


「お、おお」


 いつもはこんなに大きな声を出さない事もあって、二人とも目を見開いて驚いていたけれど、すぐにお兄さんは「ふふ」と笑う。


「でも、そっか。勝手に僕たちが言ったつもりになっていたけれど……言っていなかったんだね」

「……」

「ふふ、そんなにすねなくても。ごめんごめん。僕はただの『物書き』だよ」

「物……書き?」


 ――小説家とかとは違うのかな?


 あまり聞いた事のない職業に首をかしげていると……。


「ライターって言えばいいんじゃねぇか?」


 お兄さんの言葉を聞いた真人くんはさり気なく訂正する。


「うーん。雑誌の掲載だけじゃなくて色々なシナリオとかを書く事もある。だからそれでも間違いじゃないとは思うけど……僕としてはこの言い方の方がしっくりくるから」


 そう言うと、真人くんも「あっそ」と素っ気なく答えた。


「えっと、それじゃあ。お兄さんは色々なところで文章を書くのが仕事……って事?」


 改めてそう言うと、お兄さんは「そんなところかな」といつもと同じように穏やかな笑顔で答えた。

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