⑪思い出した事


 ――?


「……」


 そんな中で私はふと不思議に思った。


「どうしたんだい?」

「……ううん、何でもない」


 私は反射的にそう言ったけれど、真人くんが衣装を着て舞をしているのを見ると……その違和感を余計に思う。


「そうかい?」

「うっ、うん」


 でも、今その事を言うべきではないという事は私でも分かる。


 ――だって真人くんは今まさに舞をしているのだから。


 私の思った「違和感」は……きっと「余計」なモノでしかないだろう。


「……」


 ――真人くんの舞は完璧だと思うし。


 何も知らない人やこの舞しか知らない人はきっと「違和感」すら感じなかったのではないだろうか。


 ――それに……。


 雪と真人くんの舞がとてもキレイなのは間違いない。


「……」


 一生懸命に舞をしている真人くんを見ながら私はその違和感を抱えたままだったのは……言うまでもない。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 そうして舞は盛大な拍手と共に無事に終わった。


「さて、それじゃあ僕たちも――」

「……」


 ――やっぱりあの舞。


 私はお兄さんから声をかけられた事に気付かず、ジッと真人くんが去った後の舞台を見つめていた。


「……何か気になるかい?」

「え、ううん」

「そういえば、真人が舞をしている途中から何か気になっていた様だけど」

「……」


 ――もう、言ってもいいかな。


 舞は無事に終わって真人くんも今は着替えに行っている。むしろ話をするのは「今」しかないと思えるほど絶好のタイミングだろう。


「まぁ、言いにくいのなら……」

「ううん。ちょっとあの舞を見て気になっていて」

「何がだい?」

「あの舞……本当は『二人で』やるモノじゃないかって」


 私がそう言うと、お兄さんはさすがに少し驚いた様な表情を見せた。


「へぇ。どうしてそう思ったんだい?」


 でも、すぐにいつもの穏やかな笑顔で私に尋ねた。


「え」


 ――どっ、どうしよう。


 しかし明確な理由はなかった。ただ「そう思った」というだけで。


 ――それに。


 あの舞は「二人」でも「一人」でも成り立つ様な振りがされていたように思う。だからこそ、私が「そう思った」というだけかも知れない。


 ――でも。


 実は私はこの舞を少し知っていた。


 ――ただ私がしつこく「教えて」って言っただけなんだけど。


 その時おばあちゃんは少し困った様な顔をしただけで教えてくれた。


「……」

「まぁ、かえでちゃんは久美子さんのお孫さんだし。教えてもらえる機会もあったんだろうね」

「え、それじゃあ」


 私が顔を上げると、お兄さんは「うん」と頷く。


「かえでちゃんの言う通り。元々この舞は二人で舞われていたモノだ」

「!」

「でも、知っての通り『見える人』が少なくてね。それを一人でも違和感のない様に振りを修正したのは久美子さんだそうだ」

「……そうだったんだ」


 お兄さんの言葉を聞いて、私は下を向いた


「まぁ、この事を知っている人は少ない。あの人たちも『舞をする事』に全ての神経を注いでいるから気にすらしていないだろうし」

「……」


 私はお兄さんの言葉に絶句していると、お兄さんは「そういう人たちなんだよ」と苦笑する。


「でも、君が舞を知っているという事は」

「?」

「真人と一緒に本当の舞が出来るって事だね」

「え」


 お兄さんの思いがけない言葉に、私は「いやいや。そんな出来るってほどじゃ!」と必死に否定していたところに……。


「おい。何を騒いでんだ、こんなところで」


 ちょうど真人くんが着替えを終えて合流し、お兄さんは「これ幸い」と言わんばかりに真人くんにその事を話した。


「ほぉーん。なるほどな」

「いや、だから『出来る』ってほどじゃ」


 私は必死にそう訴えたけれど……二人の顔を見る限り、私は多分「舞をしなくてはいけないだろう」と感じた。


 ――でも。


 なんだかんだ嫌な気持ちよりは「仕方ない」という気持ちになったのはきっと、この二人だからだろう……そう思った。

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