⑩白に舞う


 そうしてお兄さんに案内された場所は確かに『穴場』らしく、誰もいなかった。


 ――でも、仕方ないか。


 なぜならその場所は真人くんから見て「後ろ」で、なおかつ『高い』ところにあったからである。


 ――ほとんどの人は舞が行われる舞台の周りを囲う様に陣取っているだろうし。


 それに比べてこの場所は少し距離はあるモノの舞台の全体を見渡すことが出来る。


「ここは知る人ぞ知る場所でね。高さがあるから真人からも見えない」

「なっ、なるほど」

「まぁ、そもそもこの場所に来ようと思ったら関係者じゃないと来られないんだけど」

「……」


 ――そう言えば確かにそんな事が書かれていたような。


 思い返して見ると、ここに来る途中に注意書きと仕切りがされていた事を思い出した。


 ――でも、お兄さんは全然気にせず通っていたけれど。


 その様子から、多分お兄さんはよくこの場所で真人くんの舞を見ていたのではないだろうか。ここなら舞もキチンと見える上に、真人くんも集中出来るだろう。


 ――ただ、真人くんが集中せずに舞をするとは思えないのだけど。


 むしろ「ちゃんとやらなかった事で周りの人から色々と言われる事の方が面倒」と思っている可能性もある。


 ――親戚の人。苦手って言っていたし。


 そんな苦手な人からとやかく言われるのは真人くんも断固として拒否したいところだと思う。


「ん?」


 ふと鼻の頭に「何か」が当たり、私は思わず頭を上げた。


「おや『雪』だね」

「うん」

「でも、これくらいなら問題ないだろうね」

「うん」


 むしろ、この白い雪が降っている中で行われる舞は……とてもキレイだ。


「……」


 でもそれは多分。舞が完璧だという事もあるとは思う。


 ――毎日練習していたし、でも一番の理由は……。


 舞をしているのが「真人くんだから」というのも理由だろう……と思っている自分がいる事に気がつき、私は思わずハッとした。


 ――いやいや! 真人くんが舞をしているのは「見える人」でなおかつ「舞が映える」というだけで。


「どうかしたのかい?」

「え、いや」

「そうかい? なんだか顔が赤くなっているように見えたけど」

「それは……あ、雪が降って寒くなってきたから」


 お兄さんはまるで「本当かな?」と探る様に私の方を見てくるので、思わずたじたじになってしまった。


 ――うーん。


 多分お兄さんがこれだけ私に気を遣っているのはきっと、何かと私が倒れてしまう事が多いからだろう。


 ――でも「顔が赤い」って言われても。


 正直自分では全然分からないし、多分風邪でもない……はずだ。


「大丈夫ならそれでいいけど。かえでちゃんが熱を出して倒れた……なんてなったら僕が怒られちゃうから」

「え」


 ――だっ、だれに。


 お兄さんの言葉に、思わず私は顔を上げてお兄さんを見ると……お兄さんは「あいつに」と言わんばかりに今まさに舞をしている真人くんを指した。


「……」


 雪の中を舞う真人くんはその白さもとても合っていて……とてもキレイだった。


「……」

「?」


 そして舞を見ていると……ふいに視線を感じてお兄さんの方を見ると、お兄さんは「気にしないで」と言わんばかりに真人くんの方を見る様に促す。


「?」


 ――どうしたんだろう?


 私はそんなお兄さんにうなずきつつ真人くんの方を見ていたけれど……その表情がいつもよりも柔らかく見えた。

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