⑧ちょっとしたハプニング
真人くんが舞の練習を始めてあっという間に一ヶ月が過ぎようとした頃――。
「ふっざけんなよ!」
「!」
突然真人くんが怒り出した。
――なっ、何?
舞の練習をし始めた頃は真人くんの家に行くのは避けていたけれど、ここ最近はお邪魔する事が増えていた。
――私としては練習の邪魔になるんじゃ……って思ったんだけど。
しかし、真人くんは「兄さん以外の誰かに見てもらった方が集中出来る」と言っていたらしく、お兄さんから「むしろ来て欲しい」と言われて来ていたのだ。
――で、来ていたんだけど。
真人くんが練習を始めて数分が経った頃、お兄さんが手紙の様なモノを持って現れ、それを読んだ真人くんが怒り出した。
――まぁ、真人くんが怒り出した理由は絶対『手紙』なんだろうけど。
お兄さんが「真人くんは親戚の人が苦手だ」とは聞いているけれど、ここまで分かりやすく怒っている姿を見るのは初めてだった。
「どっ、どうしたの?」
「あ? ああ。この手紙に舞が行われる日程が決まったって書いてあるんだが」
「だが?」
そう聞き返すと、真人くんは手紙をグシャッと握る。
「なんでクリスマスイブなんだよ。いつも十二月の頭だろうが!」
そして「それを見越して早めに練習を始めているっつーのに!」とあぐらをかきながらふて腐れた。
――なっ、なるほど。
どうやら真人くんは「クリスマスイブに舞の本番がある」という事に怒っているらしい。
――それにしても、真人くんって。
「クリスマスイブ……とか気にしているんだ」
「は? クリスマスっつったらプレゼントにチキンとケーキが食べられるだろうが!」
「……えーっと」
その真人くんの必死な訴えに、私は思わず圧倒されてしまった。
――でも、クリスマスって言ってもなぁ。
私にとってクリスマスは真人くんの言った「チキン」と「ケーキ」を食べられるけど「それは一人で寂しく食べるモノ」という印象しかない。
「……かえでちゃんはあまりクリスマスに思い入れはないのかい?」
「え」
いつの間に現れたのかお兄さんは飲み物を置きながら尋ねた。
「うっ、うん。確かに食べ物とかいつもと少し違うけど、だからこそ少し寂しい……かな」
いつもと違う食べ物と朝目が覚めて置かれているプレゼントを見た時……無性に寂しさを感じるのだ。
「あ、そうだ!」
突然お兄さん「良い事を思いついた」と言わんばかりに手を軽く「ぽん」と叩いた。
「?」
「?」
私と真人くんはそんなお兄さんを不思議そうに見ていると。
「この舞が行われる日。かえでちゃんも一緒に見に来れば良いんじゃないかな?」
そうお兄さんはニッコリと笑顔で言った。
「え」
「は?」
突然のお兄さんの提案に、私と真人くんはキョトンとして固まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます