⑨聞き上手なねこ
「――おい」
帰りの会も終わり、私はげた箱の前で靴をはいてとサッサと帰ろうとしていたところを真人くんに呼び止められた。
「なっ、何」
――早く帰りたいんだけど。
「ここ最近。サッサと帰っちまうよな。しかも、こっちには全然来ねぇし」
「そっ、そうかな」
なんてごまかすように言いつつ、自分でもそれは分かっていた。ここ最近、真人くんの家には行かずに自分の家にサッサと帰っているという事を。
「……」
――いつかは言ってくるかなって思っていたけれど、まさか学校で話しかけてくるなんて。
いつもであれば学校で話しかける事はせずに、ある程度歩いたところで話しかけてくるはずだ。
――それなのに……。
「……」
そう思いつつ真人くんを見ると、なぜかうつむいて歯を食いしばっている様に見える。
「――嫌なのか」
「え?」
「っ、なんでもねぇ!」
「……」
ボソボソと何かを言っていたみたいだけど、あまりにも小さな声だったから上手く聞き取れず、しかも聞き返したら顔を真っ赤にして怒って帰ってしまった。
「えぇ……」
そして私はその場に一人取り残され、サッサと行ってしまった真人くんの後ろ姿を見送る事しか出来なかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――あれは一体……なんだったんだろう?
家に帰ると、私はランドセルを置きながらふとついさっきの真人くんを思い出した。
『どうかした?』
「え」
『ずいぶん考え込んでいる様に見えたが』
「ううん。何でもない」
ここ最近、自宅に帰るといつも家の近くに黒いねこが現れる様になった。
――名前は……つけていないけど。
正直、名前がないとかなり不便ではあるけれど、おばあちゃんから「名前を付けるという事はかなり慎重になる必要がある」と言われている。
――コレが普通の捨てねことかなら多分何も問題はなかったんだろうけど。
「……」
しかし、目の前にいるねこはしっぽを二本持っている。もしコレが事故でけがをした結果であれば、何も問題はないのだけれど。
――そうじゃなかった時の事を考えると……どうしてもね。
ふと頭に浮かぶのは真人くんとお兄さんから聞いた『ねこまた』の話だ。あれは確か「二本のしっぽを持ったねこ」の事を指していた。
――それに、普通に話しているし。
ただ、コレが「私にだけ聞こえているのか、はたまた全員なのか」は分かっていない。なぜなら、この時間にこのねこが私の家に現れるだけで、普段このねこがどこで何をしているのか知らないからだ。
そんな事を考えていると、ふいに私のみけんに「ふにっ」としたモノが当たった。
「何……しているの?」
『いや、その年でみけんにシワを寄せるのはどうかと思ったからな。ねこの肉球にはいやしの効果があると』
目をそらしつつねこは私のみけんに手……というか肉球を当てる
――心配させちゃったかな。
「そこまで心配される様な事は何もない。ただ」
『ただ?』
「ちょっと友達が分からなかっただけ」
『?』
このねこには「何でも」は話していない。ちょっとした事を話してねこはそれに対して答えるだけ。
――全部を話しちゃいけないと思うのは……。
多分、このねこが『ねこまた』の可能性が高いからだと思う。
『まぁ、お前さんがかなり口が堅いって事はよーく分かる。自分の感情を表に出すのが苦手だって事もな』
「……」
それに関しては自覚がある。でも「それを言ったところでどうする」という気持ちが先に来てしまって……結局言えなくなってしまう。
『まぁ、いつまでもこの状態が続くとは……』
「あ、ちょっと待って」
ねこが何か言っている途中で家のチャイムが鳴り。
私はろくに確認もせずにとびらを開けると、そこにいたのは……。
――え。
『――思わんな』
「よお」
「こんばんは」
お兄さんと真人くんだった。
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