⑦またも知らなかった事実


「お邪魔しました」


「……」

「……」


玄関で靴を履いていると、二人は何か言いたそうな顔で私を見ている。


「あ、あの。何か」

「いや、いつも向井って、夕飯前には帰るよな」


そう、いつも夕食の前に家には帰る様にしている。


「うん、食べてから帰ればいいのに」

「いや、それは……」


お兄さんはどこか寂しそうな顔でいつもそう言うけれど、あんまり長い時間いさせてもらうのも申し訳ない気持ちになる。


「一人くらい増えたところで変わらないよ」

「それは……」


そうかも知れない。


「元々俺たちは食べる方だしな。それに、家に帰ったところで親がいねぇだろ」

「……」


確かに真人くんの言う通りだ。


いつも朝早くに私のお父さんもお母さんも家を出て夜遅くに帰って来る。


──まるで私を避けているかのように。


そしてそれは私が倒れた時も一緒で、私が目を覚ました時もお父さんとお母さんは帰っていなくて、結局。私は心配する二人をよそに家へと帰った。


「……」


──どうやら真人くんはそれがおかしいって思っているんだ。


ただ、私からしてみれば「それが普通」だと思っている。


「──まぁ、他所様の家の話に口出しするのは野暮だとは思うけれど、出来れば頼って欲しいかな」

「……ありがとうございます」


私は素直にお兄さんの言葉を受け取る事にした。


「はぁ。まぁ、そうだな。と、そういえばさっきの話だけどよ」


思い出した様に真人くんは私を呼び止める。


「さっきの話?」


──ええっと。


私は真人くんの方を振り返り、真人くんの言う「さっきの話」を思い返す。


「ああ。さっきの『ねこまた』の話だ」

「え、ああ!」


てっきり「仮装」の話だと思っていた私は、思わず大きな声を出してしまった。


「……おい、誰が仮装の話だっつった」

「ごっ、ごめん」


私が謝ると、真人くんは「はぁ」とため息をつく。


「まぁいい。とりあえず、またそのねこを見たらすぐに連絡してくれ」

「そうだね、ちょっとした変化でも教えてくれると嬉しいかな」


「ちょっとした変化?」

「ああ。分かりやすいところで言うと『大きさ』が変わった……とかだな」


真人くんに言われ、私は「分かった」と答える。


「後、襲われそうになったりヤバいと感じたりしたらすぐに電話かここに来てね」

「わっ、分かった」


一応この間の様な事もあり、その上。おばあちゃんが残してくれた『お守り』もない。そんな事もあって、二人とも私の心配をしてくれる。


──でも、あの後。お兄さんから新しいお守り。もらったんだけどな。


ただ、お兄さん曰く「僕程度じゃ、久美子さんの代わりにはならない」という事らしい。


「まぁ、家にいれば大丈夫だとは思うけどな」

「そうだね」


二人の言葉に私は思わず「え」とつぶやくと、二人も一緒に「え」と固まる。


「いや、だってよあの家。結界張ってある様なもんだぞ」


真人くんは「気がついてなかったのか」と言わんばかり答え、お兄さんも真人くんの言葉に大きくうなずき……。


「そ、そう……だったんだ」


またも知らなかった事実を聞かされ、私は驚く事しか出来なかった。

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