⑥出来ればちょっと……


「……」


 ――結局、あのまま『ねこまた』の話を聞いて……。


 その後「今度学校の集会でゲームなどをする」という話になり、その際にちょっとした仮装をするかも知れないという話になった。


「――なるほど。って、どれだけ仮装が嫌なんだい? せいぜい頭につけたりどっかしらにつけたりする程度だろ?」

「……その中途半端な感じが嫌なんだよ」

「なんで? 別にコスプレをしろって話じゃないんだろ?」

「むしろそこまで完璧にしてくれた方が諦めもつくけどな。あまりにも中途半端すぎて遊園地とかで浮かれている人みたいに見えんだろ」


「……」


 ――なっ、なるほど。


 要するに真人くんは「やるならちゃんとしたい」というワケだったらしい。


 ――私は……。


 正直コスプレも仮装もしたくないのだけれど。


「そもそも、さっき言ってじゃねぇか。俺はそういった流行りは苦手なんだよ」

「ははは。そうだったね。でも、いつかはコスプレはする事になるんじゃないかな」

「なんでだよ」

「何となく……ね」


 お兄さんはどことなく「予言」の様に言って、真人くんはあまり気にしていない様に見えた。


 ――でも、なんだろう。そうなるような気が……する。


「つーか、まるで体験談みたいに言うんだな」

「まぁね、真人はどのみち高校や大学でそういった事に巻き込まれると思う。僕ですらそうだったのだから」

「……」


 ――と、言う事は。


 きっとお兄さんもそういった経験があるという事なのだろう。


「経験者は語るってか」

「僕はそんなつもりなかったけどね、クラスの子たちがどうしてもって」

「ほーん」

「興味ないなら聞かないで欲しかったな」

「むしろ『聞いて欲しい』って俺には聞こえたけどな」


「……」


 またも言い合いが起きそうな予感がするけれど、きっとこれも義理とは言え「兄弟」だからこそ出来る事だと思う。


 ――それに、何となく分かる気がする。


 真人くんとお兄さんは全然顔も似ていないけれど、世間ではきっと「イケメン」と言われると思う。


 ――学校でも……。


 ただ「人気者」と言いたいところだけど、真人くんの場合はマンガなどに出てくる様な「クラスの人気者」というよりは「近寄りがたい。だけどあこがれの人」というタイプの様な気がする。


 ――クラスの女子も遠巻きに見ているし。


「……」


 だからなのか、たまに「地味で一人でいる事の多い私と、全然釣り合わない」と思う事がある。


 ――それに。


 こうして話す様になったきっかけも「おばあちゃん」と「黒いカタマリ」がきっかけであって、そうしたきっかけがなければきっと……。


 ――話す事もなかった人たちだと思う。


「……どうかしたのかい?」

「え」

「なんとなく元気がなそうに見えたけど」

「ううん、大丈夫……です」


「まぁ、生徒全員のカチューシャとか用意するのも大変だろうけど」

「そう……ですね」

「向井はそういったのに抵抗はねぇのか?」

「え、うーん。私も……出来ればしたくないかな。でも、みんながすれば……ちょっと考えるかもだけど」


 私がそう言うと、真人くんは「やっぱそうだよな」と言ってまたもため息をついたのだった。

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