⑤ おばあちゃんの気持ち


 ――でも、そっか。


「毎年やっていても準備とかに時間ってかかるんだ」

「そりゃな。毎日練習しているワケじゃねぇから」


 真人くん曰く「その舞をするのはその時だけの限定的なモノ」らしく、時期が近くなってから練習を始めるのだそうだ。


「つっても、向井の家となんだかんだつながりがあったんだな」

「それは……私も驚いた」


 ――でも、思い返して見ると。


 今更ながらお兄さんが「おばあちゃんを訪ねて来た」という意味が何となく分かった様な気がした。


 ――ただ。


「おっ、おばあちゃんもお兄さんみたいに祓えたのかな」


 そう、私はおばあちゃんが『黒いカタマリ』を祓っている姿を一度も見た事がない。ただ「見える」私に対してちょっとした注意をしてくれただけだった。


 ――でも、あのお守りを作ってくれたのはおばあちゃんだったし。


 それに考えてみると、私はおばあちゃんの事についてあまりよく知らない。


 小さい頃もたまに遊びに行く程度で、私がおばあちゃんの家で住むようになった頃にはおばあちゃんは足を悪くしていた。だから、おばあちゃんが舞子をしていた事もしらなかった。


「祓えたよ。むしろ、僕が知る中で相当だった」

「……」

「だからこそ、僕はあの人に色々な事を教えてもらった」

「まぁ、そうだろうな。あのお守りを見ればよく分かる。いくら『黒いモヤ』から成長したばかりとは言え、それを吹き飛ばすほどの力なんて……普通じゃあありえねぇ」


 それに関しては真人くんも同じだったのか、お兄さんの意見にうなずく。


「ただ、やっぱり年齢は……どうしようもないね。最後の舞を終えたらすぐにいなくなっちゃったよ」

「……」

「娘さんは『何も見えないみたい』って言った時。久美子さんは心底うれしそうな顔をしていたよ。多分、久美子さん本人としては『それでよかった』って思ったんじゃないかな」

「……そう、かも知れない」


 だからこそ、私が「見える」と分かった時。おばあちゃんがどんな気持ちだったのか……なんて分からない。


 ――ただ「どうにかして守ろうとしてくれた」という事は分かる。


 そうでなければきっと、私はあの『黒いカタマリ』によって怪我や事故に巻き込まれていたかも知れない。


 ――それに、本当に何も思っていなかったら。


 あのお守りや言いつけなんてしなかったはずだ。


「私。おばあちゃんに何もしなかったのになぁ」


 せいぜい私がした事なんて、おばあちゃんとちょっと話をしたり遊んでもらったりした程度だ。


「……いいんじゃねぇか?」

「え?」

「何もしなかったって言うけどよ。多分、本当に何もしなかったワケじゃねぇんだろ? 話したり遊んだりくらいしたんじゃね?」

「それは……そうだけど」


 私がそう言うと、お兄さんは「それでいいんだよ」と穏やかな笑顔でそう言ってくれた。


「かえでちゃんは『何もしていない』って思ったかも知れないけど、久美子さんはきっと楽しかったんじゃないかな?」

「そう……かな」

「ああ。じゃなかったらお守りも何もしなかっただろうよ」

「そう……かな」


 お兄さんと真人くんの言葉を聞いて、私はまた泣きたい気持ちになった。

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