④私の知らない家の話


 確かに「昔おばあちゃんが『舞子』をしていた」という話は聞いた事がある。


 ――でもそれって……。


 ただ、それが『黒いカタマリ』に関係があるとは思ってもいなかった。


「聞いた事、なかったかい?」

「え。聞いた事は……あったけど」


 実はそこまで詳しくは聞いていない。


 ――だって。


 おばあちゃんは私に『黒いカタマリ』の事や昔の話をあまりしてくれなかった。だから私は意識的にそれを避けていたのだ。


「あんまり言いたそうじゃなかったから」

「……そうか。まぁ、そうだろうね」

「あ? どうしたんだよ、さっきから」


 私とお兄さんの間に異様な空気を感じたのだろう。真人くんは少し慌てた様子で私とお兄さんを交互に見る。


「ううん。なんでもないよ。ただ、かえでちゃんのおばあさん。昔ちょっと関係があったってだけだから」

「……は?」


 お兄さんはいつもの様にサラリと言ったけれど、内容が内容だった事もあって真人くんは真顔になって固まった。


 ――まぁ、そうなるよね。


 多分、お兄さんはその事を真人くんに言っていなかったんじゃないかなって思っている。それは今の真人くんのリアクションを見ていればよく分かる。


「ちょっ、ちょっと待てよ。じゃあ、向井と俺の家って関わりがあったのか?」

「多分ね。でも、久美子さん……ああかえでちゃんのおばあさんが舞子を引退して切れてしまう程度の関わりしかなかった」


「……」


 私は自分の家の事についてよくは詳しく知らない。


 自分の家にどういった歴史があって……とか、おじいちゃんやおばあちゃん……それこそもっと前の人がどういった名前でどんな人だったかなんて誰かに聞いたり実際に話したりしてみないと全然分からない。


 ――おばあちゃんの事を知っているのだって。


 それは実際におばあちゃんと話をしてどういった人だったのか知っているというだけだ。


「でも、実際のところ。昔はもっと大きな家だったって聞いているよ。今もこうして舞をさせているのは一種の昔の栄光にすがっているとか言われているくらいだしね」

「え、でもさっき」


 ――舞をするのは『黒いカタマリ』を鎮めるためだって。


「本来はそう。だから見える人間がやるんだけど、表向きはさっきも言った通り」

「見た目……」

「そう言っておいた方が納得すると思ったんだろう。今じゃ見える人間の方が全員集まっても少ないから」

「はぁ? なんだよそれ」


 どことなく納得が出来ないのか真人くんは大きなため息をつく。


「要するに真人以外見える子供がいないって事だよ」

「!」


 私は驚いたけれど、真人くんは心当たりがあるのか「なるほどな」と言って自分の頭をかいた。


「心当たりでもあったのかい?」

「まぁな」


 真人くん曰く「真人くんが毎年舞をしているのは真人くんを目立たせたいから」と言ってくる他の家の人もいるらしい。


「でもまぁ、俺の見た目が良いのは自分が良く分かっているしな」

「ははは……」


 ――自覚、あったんだ。


 ただ、転校初日のクラスの様子を思い出すと……確かにそう思ってもおかしくはないと思えた。


「とは言え、準備とか時間がかかるのにそれを何も知らない人間にとやかく言われんのは……ものすごくむかつくけどな」


 真人くんはそう言って笑っていたけれど……どうにもその笑顔が「普通のモノ」とは違う様に私には見えた。

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