③舞の決まり
でもまぁ、げんなりとしつつもちゃんとやる人間だという事は知っている。
――ただ、色々言いたいんだろうなぁ。
「大体、いつから『子供』って言う縛りが出来たんだよ。あんたの時はそんな決まりなかったんだろ?」
「まぁ、そうだね。僕たちの時は『子供』って決まっていなかったし」
「え」
言われて見れば確かにそうだ。お兄さんの話し通りなら、お兄さんも小さい頃に舞を舞っていなければならない。
「でも、僕が子供の時はちゃんと舞う人がいたから」
「そっ、そうなんだ」
そう言いつつ私はキレイな女性の姿を思い浮かべた。
――どんな服……というより衣装なのかは分からないけど。
「はぁ、あれか『舞子』ってヤツか」
「本来はその『舞子さん』が毎年舞を奉納してくれていたからね」
「じゃあ、ある年からその舞子さんはいなくなったんだ」
それは多分「年齢」だけではない『理由』があったのだろう。
「……まぁ、そうだね」
お兄さんはそう言いながら私の方をチラッと見る。
「?」
――どうしたんだろう?
「僕が小さい頃は『舞子さん』というには大きな女性が舞をしていてね。でも、そんな事なんてささいな事だって思えるほど。あの人の舞はキレイで……心を奪われた」
「そう……だったんだ」
「うん。僕が中学に上がる頃には今の様な形になって、僕は大きいからってその役目が回ってくる事はなかったけれど」
お兄さんがそう言うと、真人くんは「そうなのか!」と大きな声を出してその場で立ち上がった。
「うん、なんでも衣装の関係らしいよ。舞子さんが引退する時に着ていたモノを今も使っているから……とかなんとかで」
「……」
――あーコレは。
真人くんは「そうだったのか」と言いつつ目を輝かせている。多分「身長が伸びれば舞をする必要がなくなる」と思っているのだろう。
――でも、そんなすぐに身長って伸びるのかな?
詳しくは知らないけれど、女子よりも男子の方が身長の伸びるスピードが遅いと聞いた事があった。
「でもまぁ、どちらにしても今年は真人がやらなきゃいけないんだけどね」
お兄さんはそう言ってニッコリと笑うと、真人くんは「あー」と言ってその場で倒れ込んだ。
――そんなに嫌なんだ。
「でも、真人くんじゃなくても他にいそう」
そう言うと、お兄さんは「あーそれは」とどことなく言いづらそうに私から視線をそらす。
「?」
――どうしたんだろう?
「ほら、真人ってあの見た目だろう? だからその、映えるっていうかさ」
「なっ、なるほど」
確かに真人くんの見た目は日本人離れしていてとてもよく目立つ。それでいて整っているため、舞を舞っても様になるというワケだろう。
「それに、多少失敗してもあの見た目と自信満々に舞う姿を見て『そういうものなんだ』って思ってくれるらしいから」
「……」
お兄さんにそう言われて思わず私は「なるほど」と納得してしまいそうになってしまった。
――でも、確かに失敗しても自信満々にしていればそう思われなくも……ないかも?
一番悪いのは「失敗して縮こまってしまう事」なのだろう。
「でもそんな舞とかが行われるって事は、お兄さんや真人くんの家って結構なお金持ちなのかな?」
私が思わずそう言うと、お兄さんは「うーん」と首をひねる。
「古い家……だとは思うよ。でも、お金持ちかって言われると……答えに困るかな」
「そっ、そうなんだ」
お兄さんの苦笑いを見ている内になんとなく「あ、コレは深く聞いちゃいけない」と感じた。
「でも、なんで新しい舞子さんを呼ばなかったんだろう?」
「ん?」
「いや、その舞子さんの家の人なら誰でも出来るんじゃないかなって思って」
私がふいにそう言うと、お兄さんは「ああそれは」と言って私の方をジッと見つめた。
「?」
――どうしたんだろう?
「元々この舞はあの『黒いカタマリ』を鎮めるためのモノで、自分の娘さんがそういったモノが見えないって知っていたからだよ。久美子さんは」
お兄さんの言葉に思わず「え」と言って固まってしまった私に対し、お兄さんはいつもと同じように穏やかな笑顔を浮かべていたけれど……それがかえって私には怖く感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます