②伝統の舞
「え」
――今年も?
真人くんの言葉を聞く限り、どうやら毎年の話らしい。
「あー! 面倒くさい!!」
そしてそれはどうやらものすごく面倒な事らしく、いつも口は悪いモノのあまり大きな声を出さない真人くんが、この時は大きな声を出して騒いでいる。
「ははは、こればかりは仕方ないね」
しかもお兄さんはそんな真人くんの様子を見ながら笑っている。
「……」
どうやらこの話はお兄さんでも「仕方ない」で終わらせるしかない話らしく、真人くんはそんなお兄さんの言葉を聞いて「分かっているっつーの!」とどことなくふて腐れた様子で言う。
「あの、お兄さん」
「ん?」
「真人くんはどうしてあんなに……」
「荒れているのかなって?」
お兄さんの言葉に、私は思わずうなずく。
「真人くんって、いつも大人しい……というワケじゃないけれど、静かなイメージだから」
素直にそう言うと、お兄さんは最初こそキョトンとした表情だったけれど、すぐに「ははは!」と笑い出した。
「おい、大人しいってワケじゃねぇってなんだ」
「え」
まさか真人くん本人からツッコミが入ると思っていなかったので、私は思わず固まってしまった。
「向井は俺の事をそう思っていたんだな」
「え。だっ、だって」
――真人くんって。
基本的に言われた事に対してすぐに自分の考えを言い返すタイプだから「受け身」というワケではない。
だからこそ、転校したばかりの頃の『度胸試し』でクラスの男子と衝突した……と思っている。
――だから「大人しい」ってワケじゃないと。
そう思ったから、素直にそう言っただけだったのだけど……。
――なっ、なんか。凹んでいる?
クラスメイトの中には「真人くんって分かりにくい」とか「何を考えているのか分からない」という人がいるけれど、私からしてみれば「分かりやすい」し「表情も豊かな方」だと思っている。
――少なくとも私よりは……。
ちなみに私もそう言われやすいのでよく分かる。
――まぁ、本人の耳に届いているのかは……別の話だけど。
「――はぁ、笑った笑った」
「笑い事じゃねぇよ」
「ごめんごめん。でも、毎年の事じゃないか。舞をするなんて」
「……」
お兄さんがそう言うと、真人くんは「分かっているけどよ」と言いつつあまり乗り気ではないらしい。
――それにしても。
「舞?」
「うん。毎年僕たちの家では舞を舞う事になっていてね。まぁ、真人が乗り気じゃないのは毎年の事だけど」
「だーってよ。この舞の練習に時間は取られるし、本番の服は重いしでとにかく面倒なんだよ」
――そっ、そんなに。
「まぁ、大人が必死になって子供はそれに付き合わされているって感じだから……子供のやる気のなさは……真人を見ての通りってね」
「ははは……」
――確かに、やる気がないのは見ての通り……ってね。
真人くんのげんなりとした表情から、私は何となく「お疲れ様」と言いたい気分になった。
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