第三話 白に舞う

①ハガキ


「それで……結局、ハロウィンはどうなったんだい?」


 お兄さんは思い出した様に私たちに尋ねた。


「……」

「……」


 何も知らないお兄さんに対し、私たちは思わず顔を見合わせたのだけど……。


「あっ、あれ? どうしたんだい? そんな言いにくい事かい?」


 ――いっ、言いにくいワケじゃないけど。


「……」


 しかし、真人くんはその時の事を思い出しているのか無言のままうつむいている。


「?」


 その様子を見たお兄さんは余計に不思議そうにしている。


「いや、言いにくいわけじゃなくて……その」


 実は、ハロウィンの日に学校で集会は予定通りに行われた。


「ただ、少しやり方が変わって……」

「なるほど?」

「実は、ゲームで順位を付けて上位のクラスの代表者がどんどん色々な物が追加されていく……という形になって……」

「ああ、それで――」


 そう言ってお兄さんはどことなくイライラしている真人くんの方をチラッと見た。


「ちなみに」

「はい」

「何のコスプレをしたんだい?」


 真人くんは今もイライラとしているため、お兄さんはコソッと私に尋ねた。


「えと、吸血鬼……です」


 私がそう答えると、お兄さんは「へぇ」と言いつつ何か言いたそうな表情を見せる。


「? あの」

「いや、別に何でもないんだけど。なんか……普通だなって思ってさ」


 ――普通……なのかな?


 確かに、真人くんの見た目は日本人離れしている。それもあってみんな……というか女子が「この格好をして欲しい!」という話になってコレを選んだ。


「はぁ、完全に着せ替え人形だな。あれは」

「ははは」


 結局のところ。ゲームをクリアしなければコスプレは完成しない形になっていて、どこのクラスも中途半端になってしまった。


「……私たちのクラス以外」

「へぇ、頑張ったんだ」


 お兄さんはそう言って穏やかに笑っているけれど、その日の実際の様子は……まぁ一言で言うと「怖い」モノだった。


「なんつーか、全員必死だったよな。一応『お遊び』のはずだったんだろ?」

「私もそのつもりだったんだけど……みんなすごかった」


 女子は「真人くんのコスプレ姿を見たい!」という気持ちから、男子は「理由はなんであれゲームで負けたくない!」という気持ちからなのか……とにかくすごかった。


「先生も熱血……ってワケじゃないけど、熱い先生だから一緒になって盛り上がって」

「なんつーか、俺たちのクラスだけやけに盛り上がっていたよな。むしろ浮いていたくらいに」

「……うん」


 正直、私とコスプレをさせられる真人くんの反応が一番周りの空気に合っていたのではないだろうか。


「そうだったんだ。あ、そうだ。真人」

「あ?」

「そろそろ冬になるから練習しておけって連絡が来たよ」

「……」


 お兄さんがそう言って真人くんにハガキを手渡すと、真人くんはそれを見て「はぁ」と深いため息をついて「今年もやるのかよ」と小さくつぶやいたのだった。

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