⑪今何時?


 そそくさと行ってしまったお兄さんを私と真人くんはただただ見送るしかできなかった。


 ――ここって、真人くんの家だったんだ。


 しかし、とにかく分かったのは「それだけ」で。


 ――って!


「……」


 私はある事を思い出し、慌てて辺りを見渡す。


「どうしたんだよ」


 真人くんは私が慌てている事を不思議そうな表情で見ている。


「じっ、時間! 今何時!?」

「は?」


 ついさっきまで気を失っていた人間の言う事だと思わなかったのか、問い詰めるように近づいた私に対し、真人くんはキョトンとした表情だった。


「つーか……近ぇよ」


 あぐらで座っていた真人くんは私から気まずそうに顔を背けながら小さくつぶやく様に言う。


「え、あ。ごっ、ごめん――」


 この後は「なさい」と言って真人くんから離れるはずだったのだけど……。


 ――ん?


 ふと「何か視線を感じるような?」と、とびらの方を見ると。


「――あ」


 ――なっ、なんで。


 そこにはとびらに手をかけてぼうぜんと立っているお兄さんの姿。


「ごめんね。えっと、お邪魔……だったかな?」

「いや。全然!」

「違ぇよ!」


 全力で否定をする私たちに対し、お兄さんは「えぇ、そうかい?」とどことなく残念そうなに言いつつ、笑顔だった。


 ――あ、コレはからかっているな。


「そうだよ」


 しかし、真人くんはそれに気がついていないのか顔を真っ赤にさせて全力で否定している。


「まぁいいや。それより、どうしたのかな?」

「あ、そうだ! あの、今何時ですか?」

「うん? 今は夜の十時だよ」

「十時……」


 ――という事は。


 学校に行ったのは七時頃で、男子に会ったのがその後と考えると……大体三時間ほど経っているという事になる。


「かえでちゃんのご家族の方はまだ帰って来ていなかったみたいだし、カギも分からなかったから僕たちの家に連れて来ちゃったんだけど」

「そっ、そうだったんだ」


 気絶した後の話をお兄さんから説明されて、私はとにかく申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「あの、すみません。ご迷惑をかけてしまって」


 そう言うと……。


「ううん、気にしなくて良いよ。それに、僕たちの家はかえでちゃんの家の裏にあるから」


 お兄さんは笑顔で答えた。


「……え。裏?」

「うん。ほら」


 そう言われてお兄さんの言う方向を見ると、確かにすぐ近くに私の家の特徴的な屋根が見える。


「でも、真人と集団登校の班が違うのは残念だったな」

「それは……仕方ないと」

「ああ、うん。丁が違うからね。分かっているよ」


 お兄さんはそう言いつつも「でも、顔見知りの人がいた方がいいかなと思ってね」とやはり残念そうだ。


「つーか、謝るのはお前じゃなくてむしろこっちだろ」


 そんな私たちのやり取りを見ていた真人くんはあぐらをかきながら言う。


「ああ、そうだね。ごめんね、かえでちゃん」

「え」


 ――いっ、一体何があったの?


 正直、未だに自分が気絶した理由も真人くんの家で寝ていた理由も何一つ分かっていない。


「……」


 そんな中で謝られても、正直どうすればいいのか分からない。


「……はぁ」


 私が「どうしよう」と困っていると、真人くんは「ん」と『あるモノ』を私に差し出した――。

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