⑫おばあちゃんが残したモノ


「こっ、これって……」


 真人くんから渡された『それ』は真っ黒の四角いモノだったけれど、私にはこの形に見覚えがあった。


「俺には元々それが何だったかは分かんねぇけど」


 そう、普通の人にはコレがなんだったのかは分からない。それくらい原型を留めていない。


 ――でも。


「……ありがとう」


 私は真人くんにお礼を言いながらそれをギュッと両手で握りしめた。


「おっ、おう」


 まさかお礼を言われると思っていなかったのか、真人くんは驚いた様に答える。


「……で、それ。なんだ?」


 ただ、真人くんはコレが何か分かっていないので不思議そうに私に尋ねた。


「あ、えと、コレは――」

「久美子さんからもらったお守り」


 私が答える前に、お兄さんがそう言って「そうだよね?」と私の方を見る。


「うっ、うん」


 まさかお兄さんが言うとは思っていなかったので驚きながらうなずいた。


「……なんであんたが知ってんだよ」


 それに対して真人くんはすねたような表情でお兄さんと私の方を見る。


「ははは、そんなにふて腐れなくても何となく分かるよ。後、僕『あんた』なくて真人のお兄さんだよ?」

「あくまで義理だろ。つーか『お守り』つっても、あんなに強力なのは見た事ねぇよ」

「それだけ強力な『お守り』を持たせないといけなかったんじゃないかな?」


「……」


 お兄さんはそう言って私の方に視線を向け、真人くんも私の方を見る。


「?」


 ――どっ、どうしたんだろう?


「はぁ。つー事は、こいつは相当『見える人間』って事か?」

「そう考えればこれだけ強力な『お守り』を持っていた理由になると思うよ」


 二人は深刻そうな表情で話をしているけれど、私には全然分からない。


 ――そもそも。


 この『お守り』もおばあちゃんが「コレがかえでを守ってくれるからね」と誕生日にくれたモノだ。


「つーか。あの『お守り』は何で光ったんだ?」


「あっ、あのそれ……」

「ん?」


 不思議そうに首をかしげている真人くんに対し、私はあの時見た『黒いカタマリ』について聞く事にした。


「ふっ、二人はその」

「?」

「気付かなかった……ですか」

「何がだ?」

「その、男子の一人の肩に……黒いカタマリがいたのが」


 私がそう言うと、二人は驚いた様に顔を見合わせた。


「は?」

「いっ、いたのかい? あの場に」


 お兄さんも信じられないのか驚きの表情を隠さずに私に尋ねる。


「うっ、うん」


 ――そっ、そんなに驚く事かな? というか、やっぱり気がついていなかったんだ。


 二人の反応を見て、私はむしろ「納得」だった。


「ちっ、ちなみにどう見えていたのかな?」

「え、えと。真っ黒くて大きな球体で……大きな一つ目が……」


 話ながらあの大きな目が合った時の事を思い出してしまい、勝手に体が震えてしまう。


「……無理しなくて良いんだよ」

「いっ、いえ。大丈夫……です。えと、その大きな一つの目玉と目が合った瞬間に……私の目の前に『何か』が伸びてきたと思ったら……」

「お守りが光ったんだな」


 真人くんが言った言葉に対して私は無言でうなずいた。


「なるほど。それならやっぱり、かえでちゃんの危険にお守りが反応した……って考えるのが普通だね。それに、その状況ならそれが『お守り』だという証明にもなる」

「じゃあやっぱり……コレが」


 ――私を守ってくれたの?


「うん、そうだと思うよ」


 お兄さんは穏やかな笑顔でうなずき、私はおばあちゃんが残してくれて守ってくれた『お守り』をもう一度見て……小さく「そっか」とつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る