⑩ここはどこ?


「──こっ、ここは」


 ──とりあえず、自分の家じゃないって事くらいしか分からない。


 古い木造の天井は……明らかに自分の家で見た事があるのは、おばあちゃんの部屋でしか見た事がなく、また畳だったのもおばあちゃんの部屋だけだ。


 ――でも、おばあちゃんの部屋のとびらは……あんな遠くにはない。


  チラッと見た視線の先にあるとびらは、かなり遠くにある。


 ――それに、おばあちゃんの部屋はこんなに広くないし。


 なんて思いつつゆっくりと起き上がると、そこは広い畳の部屋で、私は部屋の中心で寝ていたらしい。


 ――でも、ここ。本当にどこだろう?


 私は気を失うまでの事を振り返る。


「ええっと……」


 ――確か、夜の学校で男子たちの『度胸試し』とか言うのの様子を真人くんとお兄さんと一緒に見に行って……それから。


「!」


 ――そうだ! 私、いつもと全然違く『黒いカタマリ』を見て、それで。


 その黒いカタマリと視線が合ってしまい、その後の事は……あまり詳しくは覚えていなかった。


 ――でも。


 あの時目が合った『黒いカタマリ』は、私が普段見ている様なモノと似ている様で全く違うモノだと思った。


 ――だって。


 それは「大きな一つ目だったから」とか「霧みたいにぼんやりしていなかったから」とかそういった「目で見て分かるほどの変化」だけではなく……。


 ――とにかく怖かった。


 それこそ「真人くんの手を握っていなければ腰が抜けてしまうほど」に。


 ――でも。


 私にはハッキリと、くっきりと見えた『黒いカタマリ』も真人くんやお兄さんには見えていなかった様に思う。


「……」


 ――じゃあ、あれは一体。


 お兄さんから前もって聞いていた話では、お兄さんも真人くんも「見える」と言っていた。


 ――しかも、二人とも見え方は様々だって。


 私よりもむしろ二人の方がハッキリと見えていたのではないだろうか。どう見えていたかは別の話として。


 ――それなのに。


 今回は二人ともあの『黒いカタマリ』に気が付いていなかった様に思う。


 ――で、私は……多分。気絶したのかな。


 正直、自分の身に何が起きたのかは分からない。でも、何となく……そんな気がした。


「お、目が覚めたか」

「あ」


 そんな時、ふと扉が開いてそこから真人くんが現れた。


「えと」

「体調……」

「え、あ。うん。大丈夫」

「……そうか」


 言葉は少ないけれど、何となく気を使ってくれているのは分かる。


 ――それに、どちらかと言うと「どう話せばいいのか」って困っている感じがする。


 確かに、今の私は……多分。気を失って目が覚めたばかりだ。気を遣われるのも仕方がない。


 ――でも。


 あまりにも気を遣われる過ぎるのも、それはそれで申し訳ない気がする。


「……」

「……」


 ――ただ……ちょっと、気まずいかな。


 真人くんも私を心配して様子を見に来てくれたのだとは思うし、その気持ちは素直にありがたい。ただ、どう話を切り出せばいいのか……正直迷ってしまう。


 ――どっ、どうしよう。


 そう困っていたところに……。


「真人ー、どうだい。かえでちゃんの様子は……と」


 お兄さんが現れた。


「なんだ、目が覚めたのなら早くそう言ってくれればいいのに」

「わっ……悪かったな」

「全然悪びれている気がしないけど」

「……」


 どうやら私の様子を見に行って戻って来ない真人くんを不思議に思ったらしい。


「あっ、あの! ここって……」

「ん? ああ! ここ。僕たちの家」


 私の問いかけに対し、お兄さんは笑顔でそう答え「ちょっと待ってて」と言って部屋を出て行った。

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