⑨予想外の出来事
「……」
真人くんは私が震えている事に気がついていたけれど、それをお兄さんには言わなかった。
いや、正確には「言えなかった」の間違いか。なぜなら、男子たちが私たちに気がついたからである。
「あれー? 転校生くんがこんなところで何しているのかな」
「……」
明らかに真人くんをバカにしている口調に、私ですらイラ立ちを感じる。
「つーか、なーんにもなかったけどな」
「そうそう。転校生くんが言っていた『危ない事』もなかったし」
しかし、真人くんやお兄さんはそんな男子たちの話を軽く聞き流している様に見えた。
──いっ、意外。
でも、考えて見ると確かに真人くんが男子たちを止めていたのはあくまで「あの黒いカタマリが男子たちに何かするかも知れない」という危険性があったからだ。
そして、今回は特に何もなかったという事が分かった。
つまり、そもそも真人くんは男子たちの心配というよりは「私からは黒い霧のカタマリに見えるモノが人に悪さをしないか」というのを気にしていただけだったのだ。
──そもそも、男子たちに「あれ」は見えないし。
「……」
そう思いつつも、私はさっきから感じている「強い視線」に気がつかないフリをしつつ体を強張らせる。
「──ところで、コレで全員かい?」
お兄さんは男子たちの話が終わるのを待って尋ねる。
「あ? あんた誰だよ」
「ん? ああ。真人の兄だよ。真人が君たちの心配をしていたから」
そう言いつつお兄さんはチラッと真人くんの方を見る。
──なんか、怖い。
「へぇ? 心配してくれてたんだ」
「それならそうと言えばいいのによぉ」
なんて言いつつ男子たちは笑い出す。
──な、何がそんなに面白いんだろう。
正直、たまにクラスの人たちの笑いのつぼが分からない時がある。
「?」
──あれ? あの子は。
そんな時、一人の男子が顔を真っ青にして息苦しそうに背を丸くしているのが目に入った。
確か、クラスの男子の中でもかなり大人しい子だったはずだ。
──いつも、あいつに付き合わされて、今回も……って事か。
「!」
なんて思いつつその子を見ると。
──あ、あれ……は。
その子の背中に『何か』がいる。
──いつも見る『黒い霧』にみっ、見えるけど。
パッと見た瞬間はそう思った。しかし、よく見ると……その『黒い霧』は……いや、もはや霧ではなく、その子の肩にガッチリと捕まっている。
──しっ、しかも。何、あの『目』は。
真っ黒い球体になった『それ』は大きな一つの目玉で辺りをキョロキョロと見渡している。
──な、なんで……。
誰も気がつかないのだろうと思ってしまう。それくらい『それ』は、もはや私の知っているモノではなく、そして『私の手に負えるモノじゃない』と本能で感じた。
「!」
そう思った時、ふいに私は『それ』と目が合ってしまった。
──あ、ヤバい。目が……。
私がそれに気がついた時。
「……」
既に『それ』は私のすぐ目の前にいて……。
「かえでちゃん!」
「向井!」
すぐ隣で手を握ってにいるはずの真人くんの声がやたらと遠く聞こえた……と思った時。
「っ!」
私のすぐ目の前で『何か』が光った。そして……そこから先は……何も覚えていない。
「……」
次に目が覚めた時。私の目に入って来たのは見覚えのない天井だった──。
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