③好きなモノと苦手なモノ
真人くんの家は、少し昔な感じのする古い家で、中もほとんどの部屋がたたみの部屋だった。
「ただいまー」
「おっ、おじゃましまーす」
最初でこそ、目を覚ましてすぐだったせいもあってか「怖い」という印象だったけれど、今となってはむしろこの雰囲気が落ち着く。
「あ、二人ともお帰り」
私たちが帰ってきた事に気が付いたのか、玄関を開けてすぐの部屋からお兄さんがひょっこりと顔を出す。
「後でおやつ持って行くね」
「おう」
「あっ、ありがとう」
そうお礼を言うと、お兄さんは「ふふ」と笑って「そんな事は気にしなくていいんだよ」と言わんばかりに私の頭を軽くなでた。
「……」
――今日も……いる。
お兄さんの仕事が何かと詳しく聞いた事はない。それは真人くんだけでなくお兄さん本人にも聞いていない。
――まぁ、多分お兄さんは……聞いても教えてくれないだろうし。
何度か話をしてなんとなく分かったのは「お兄さんは自分の都合の悪い事はごまかす事」が多いという事だ。
――私も……言いたくない事はあるし。
そういった事がだれにでもあるって事くらいは、小学生の私でも分かる。
――そもそもあんまり興味もない。
ただ「ちょっと気になる」というくらいの話だ。
「つっても、ほとんど宿題なんて残ってねぇけど」
「ははは」
そうして真人くんと共に「勉強部屋」として使っているのは、私が気絶した時に運ばれた部屋。
でも、正直言って「部屋」というより「辺り一面畳が広がっている広い場所」と言っていいほど、この部屋は広い。
――本当は二人で使うのももったいないくらいだけど。
一応、ここにはゲームもあるけれど、あまりにも広すぎる場所に対してテレビの大きさが合っていない様に思えるほど小さい。
――でも、テレビ自体は私の家のリビングにあるモノと一緒だと思うんだけど。
ただ、体を動かすようなゲームをプレイする時は便利である。
「おや、二人とも宿題はいいのかい?」
「休み時間中に終わらせといた」
「えっと、同じく」
「ははは、二人は優秀だね」
そう言って笑いつつお兄さんはおぼんにのせていたお茶とお菓子を私と真人くんの前に置く。
「ん? なんだ、コレ?」
「……ねこ?」
私たちの前に置かれたお菓子は黒いねこの形をしたケーキだった。
――ご丁寧にしっぽも付いてる。
「ああ、ちょうど買い物先で見つけてね。真人は甘い物が好きだし、かえでちゃんも猫が好きかなって思ったんだけど」
「……」
確かに、目の前にあるねこのケーキは……正直食べるのがもったいないほどかわいい。
――真人くんが甘い物が好きだって知った時は驚いたっけ。
真人くんは……どことなく大人っぽいと思っていたから、甘い物も苦手だと勝手に思い込んでいた。
「それに、今の時期は『ハロウィン』だからね。こういった黒猫とかおばけとかカボチャのお菓子がよく出回っているんだよ」
「はぁ」
そんなお兄さんの言葉を聞いた真人くんは突然ため息をついた。
「おや、どうしたんだい? ため息なんかついて」
「いや、本当に『ハロウィン』ってだけでやけに騒がしいと思ってよ」
そう言って真人くんはまたため息をつく。
「……なるほど」
「俺からしてみれば『ハロウィン』なんて、日本でいうところの『お盆』じゃねぇか」
ため息まじりに言う真人くんに対し、お兄さんは苦笑いのまま「ははは、確かに」と答える。
――あ、認めちゃうんだ。
「それにしても、真人がここまで深いため息をつくなんてめずらしいね。何かあったのかい?」
「……」
「えーっと、何かあったかと言われると……」
――そこまででもないと思う。
私はそう思うのだけれど、チラッと見た当の真人くんはケーキを食べながらふて腐れている。
「そっか。まぁ『ハロウィン』で仮装とか色々と言われるようになったのもここ最近の話だし、大方学校でもそういった話が出たのかな」
笑顔で言うお兄さんに対し、どうやら図星だった真人くんは気まずそうに顔を背ける。
「真人はそういった流行に左右されるのが嫌いだからね」
「……え」
――そうなんだ。
少し驚きながら真人くんの方を見たけれど、真人くんは気まずそうに私とお兄さんを見ないように一人黙々とケーキを食べていた。
それを見ていたお兄さんは「照れなくてもいいのに」とまた笑い、それに対し真人くんは「うるせぇ」といつも以上に小さな声で返していた。
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