②学校でも


 たとえ世間や周りが「ハロウィン」だったとしても、私の日常生活に大きな変更はない。


 ――もし何かあったとしたら……。


 それは「学校行事」以外に他ならない。


「……」


 正直、私はあまり「ハロウィン」に大きな思い入れがあるワケじゃない。むしろ「ハロウィン」が世間で大きく取り上げられる様になったのはここ最近の話だと思っている人間だ。


 ――でも。まっ、まさか。


「……はい、そういうワケで。今度の三十一日に『ハロウィン』があります。そこで、学校でも簡単なイベントをしようと生徒会で決まりました……というワケだ」


 学校でも一つのイベントとして数えられるとは……思ってもいなかった。


「せんせー。何をするんですか?」

「一応、今のところは三時間目と四時間目を使って体育館でお菓子のばらまき……じゃなかった『トリックオアトリート』という合い言葉の元に簡単なゲームをするらしい」

「ゲームって何をするんですか?」

「それは当日のお楽しみだ」


 そう言いつつ、先生は簡単にプリントに目を通す。


 ――あ、先生もあんまり詳しくは知らないな。


 基本的にこの学校では生徒会が提案したイベントなどは「生徒会」が中心となって行う事が多く、あまり先生たちが出て来る事はほとんどない。


「何か仮装するんですか?」

「それは……今のところなさそうだな。あるとすれば、生徒会が用意したモノを付けて体育館に行く程度といったところか」


 先生がそう言うと「えー」という生徒たちの残念そうな声が教室中に響いた。


「……」


 ただほぼ同じ様なタイミングで「えー」と言う声が少し離れたところから聞こえたから……私たちのクラスだけじゃなくてみんな同じだったのかも知れない。


 ――私としては、そもそも面倒くさいって思っちゃうんだけど。


 どうやらみんなは違うらしい。


「はぁ」


 なんて事を思っていると……。


「はぁ……」


 何やら後ろの席からものすごく大きなため息が聞こえた気がしたけれど……。


 ――気にしないでおこう。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「ったく、なんでハロウィンのイベント何でやんだ? しかも『学校』でよ」


 学校から帰る途中、後ろから真人くんが現れて突然そう声をかけてきた。


「……」

「おい、俺。向井に話しかけてんだけど」

「え」


 ――わっ、私!?


 確かに私と真人くんの隣……どころか周りにはお互い以外誰もいない。


「向井以外に誰がいんだよ。誰もいねぇだろ」


 ――でも。


 あの『度胸試し』の一件以降、真人くんと学校で話す事はあまりなく、最初の頃の様にプリントを回す時くらいしか話さない程度の関係に戻っていた。


「ったく、帰る場所は一緒だろ」

「そう……だけど」


 ただ変わったところと言えば、学校帰りに真人くんの家に寄る様になったくらい。


 でもそれはあの一件以降。日付が変わるまで誰も帰ってこない事を知った真人くんの義理のお兄さんが「誰もいない家って寂しくないかい?」と言ってくれたのがきっかけである。


「はぁ、学校だと変なうわさを立てられかねねぇからこっちも色々と苦労しているっつーのに」

「?」


 真人くんは何やらボソボソ言いながら自分の頭を乱暴にかく。


「どうしたの?」

「なっ、なんでもねぇよ。それより、毎年なのか? ハロウィンに何かやるっつーのは」

「え、ううん。今年が初めて」

「……そか」


 なんて、歩きながらちょっと話をしている間に……あっという間に真人くんの家に着いた。

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