⑤不思議なお兄さんとの再会


「こんにちは。少しお尋ねしたい事が……おや」


 玄関を開けたのが私だと気がついたお兄さんは少し驚いた様な表情を見せた。


「こっ、こんにちは」


 最初に会った時はお兄さんの顔を見る余裕もなかったのと、髪が今の様に後ろでまとまっていなかった事もあって気が付かなかったけれど……。


 ──お兄さんって、こんな人だったんだ。


 あの時は聞かれた事にただ答えただけでよくお兄さんを見ていなかった。


「……」


 ──なんと言うか。


 転校生の東条くんも女子から「かっこいい」と言われている。


 ──でも、お兄さんは東条くんとは全然違うけど「かっこいい」というか、モテそう。


 それは年齢もあるだろうけど、それ以上に『見た目』という意味である。


 東条くんは白い肌な白く短い髪で、ネコの様に目が大きい。それに対してお兄さんは東条くんよりは肌も白くなく、髪は黒く長い。


 ──東条くんって、なんか近寄りがたい雰囲気があるんだよね。


 しかし、このお兄さんはどちらかというと、話しやすそうな雰囲気を持っている様に思う。だからこそ「モテそう」と思ったのだけど。


 ──見た目で言うと、東条くんが『ネコ』でお兄さんは『キツネ』って感じがする。


 なんて事を考えていると、お兄さんが「どうかしたのかい?」と尋ねてきた。


 ──しっ、しまった。固まっちゃってた。


「いっ、いえ。ところであの、うちに何か用ですか?」


 私は気を取り直してお兄さんに尋ねる。


「ん? ああ、白咲しらさき久美子くみこさんはいるかな?」

「え」


 お兄さんの言葉に私は思わず驚いた。


「?」

「え、えと。おばあちゃんは……昨年亡くなりました」


 そう、お兄さんが聞いてきた「白咲しらさき久美子くみこ」とは私の祖母の名前だったからである──。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「そうか。久美子さんは既に亡くなられていたんだね」

「えと、わざわざ訪ねて来てくれたのに……すみません」


 そう言いつつ私は「お茶しかありませんけど」とお兄さんに差し出す。


「いや、体調が良くない事は知っていたんだ。むしろ、訪ねるのが遅くなってしまってこちらの方が申し訳ない」


 お兄さんはそう言って笑顔で差し出した麦茶をありがたく飲む。


「あ、あの」

「ん?」

「おっ、祖母とはどういった関係で……」


 私がそう尋ねると、お兄さんは少し考える様な素振りを見せる。


「うーん。色々教えてもらった師匠って言えばいいのかな」

「師匠?」

「うん。詳しい説明は難しいけど、久美子さんには色々とお世話になったんだよ」

「そっ、そうだったんだ」


 私がそう言うと、お兄さんは「そうそう」と言って笑う。


「それより、君はついさっき帰って来たのかい?」

「え」

「見たところランドセルしか置いてないから」

「あ、えと」


 ──いっ、言えない。今日の学校であった事なんて……。


「……何か悩み事でもあるのかい?」

「いっ、いえ。悩み事なんて……」


 そう言うと、お兄さんはジッと私を見つめる。


「いやね。実は僕の弟が君の通っている学校に転校してね。真人って言うんだけど」

「……!」


 私が思わず目を見開いて驚くと、お兄さんは「やっぱり、君だったんだ」と納得した様に一人でうなずく。


「え」

「弟……と言っても『義理の』って言葉が付くんだけど」


 ──義理?


「真人は僕の姉さんの息子なんだよ。だから、真人との関係は『おじさん』って事になるんだけど……」

「おじさん」


 お兄さんは「あ、一応僕まだ二十代だからね」と言ってクスクスと笑う。


 ──さすがに見た目で「おじさん」とは言わないけど。


「君の事は真人から聞いているよ」

「え」


 ──何て言われているんだろう。


 確か私の記憶ではほとんど会話をしていないはずだ。


「まぁ、それはそれとして……今日学校で度胸試しの話が出たんだってね。真人が学校から帰ってすぐにブツブツ文句を言っていたよ」

「……」


 ──やんわりと話を変えられた。


 しかし、どうやら東条くんは既にお兄さんにその話をしていた様だ。


「で、君はその話が気になるワケだ」

「え、えと……」


 正確には「東条くんの言っていた内容」だけど、そもそもクラスの男子が度胸試しの話がなければ東条くんがそんな事も言わなかったはずだ。


「……」


 無言のまま固まってしまった私に対し、お兄さんは「違った?」と言う様にコテンと首をかしげる。


「え……と。実は──」


 お兄さんは「全く何も知らないワケじゃない」と思った私は思い切ってお兄さんに今日教室であった事を話した──。

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