⑥深いため息と驚き
「はぁ……」
私の話を聞いてすぐ、お兄さんは深く重いため息をついた。
「え、えと。ごめんなさい」
あまりにも重いため息だったから、私は思わず謝った。
「いや、君……えっと」
「かっ、かえでです」
「かえでちゃんか。僕は
──置いとくんだ。
「とにかく、かえでちゃんは何も悪くない。むしろ僕の方が謝りたいくらいだ」
「そんな」
「そもそも誰が聞いているのか分からないって言うのに、そんな言い方をすれば気になるのは当然だよ」
そう言ってまたため息をつくと「本当に僕の弟がすまない」と申し訳なさそうに笑う。
「いえ、そんな」
「でも、かえでちゃんは実際気にしていたワケだろ?」
「それは……」
確かにそうである。
「……真人から話は聞いているけど、かえでちゃん」
「はっ、はい」
「君、ひょっとして『人ではないモノが見えている』のではないかな?」
「え」
お兄さんに言われた言葉に、私は思わず固まってしまった。
「ん? あ、意味が分からなかったかな。もっと言うと『普通の人には見えていない何か』が見えていないかな」
ニッコリと穏やかな笑顔を私に向けるお兄さんにからかっているような様子はない。
──でも。
果たして言って良いのだろうか……そう思えてならなくて……私はお兄さんと顔を合わせづらくて思わずうつむいてしまう。
「……大丈夫だよ」
「え」
「僕や真人も見えているから」
「そ、うなの?」
驚きのあまり思わず片言になってしまった。
「ああ。それで、かえでちゃんの日頃から様子を見て、真人も『もしかして』と思っていたらしいね」
──そうだったんだ。
どうやら日頃から感じていた視線の理由はそれだったらしい。
──あれ、そういえば。
確かお兄さんは「普通の人には見えていない『何か』が見えていないかな?」と私に尋ねた。
──それって……。
「あの」
「ん?」
「さっき『普通の人には見えていない何か』って、あの。その『何か』って……」
お兄さんは私が言おうとしている事が分かったのか「ああ」とうなずく。
「実はね。あえてあいまいな言い方にしたのにはちゃんと理由があってね」
そう言って「ふぅ」と一呼吸置くと、お兄さんはさらに話を進めた。
そしてお兄さん曰く、どうやら私には『黒い霧のかたまり』に見えているモノがお兄さんには『化け物』に見えているらしい。
「化け物?」
「そう、化け物。簡単に言うと……そうだな。何かの動物と動物が一つになっている……みたいな感じかな。しかも普通ならありえない動物同士が……ね」
お兄さんの話を受けて私は思わず想像してしまって……思わず顔が青ざめてしまった。
「ちなみに真人には『大きな虫』に見えるらしい」
「なっ、なるほど」
「かえでちゃんは……」
「霧です。黒い霧のかたまり」
そう言うと、お兄さんは「それも……やっかいだね」と苦笑いを見せる。
「え」
「私たちはまだ物体で目などが分かるけど、かえでちゃんのは……」
「えと、何となく視線は感じるけど……どこに目があるかなどは……何も」
「そうか」
徐々に語尾が小さくなっていくのが自分でも分かる。
「あの、あれは一体……おばあちゃんは『こっちから何もしなければ向こうも何もしてこない』って言っていたけど」
「うーん。そうだね、確かに久美子さんの言うとおりなんだけど」
「?」
「今はちょっと急いだ方がいいかな」
「え」
「ほら、かえでちゃんがさっき言っていた度胸試し。話を聞いた限り今日の夜にでもやりそうな雰囲気だったからね」
「!」
そう言われてようやく気がついた。
──そうだ、あの男子たちの様子だと。
確かに今日の夜にでもやって明日の朝に「何もなかった」とか勝ち誇った様に言いそうだ。
「しかも『人に見えない存在』は新月や満月に行動が活発になる」
「きょ、今日って……」
思わず尋ねると……。
「新月だね。加えてそういった存在は人が集まるところに集まりやすい」
「じゃ、じゃあ」
「真人の言うとおり『何が起きるか分からない』ね」
お兄さんが断言する様に言う。
「……」
「見に行くかい?」
「え」
「様子。何も起きないのが一番いいだろうけど……正直この条件だと何か起きる可能性が高いからね」
そう言ってお兄さんは「もちろん無理にとは言わない」と付け加えて尋ねる。
「……」
そんなお兄さんに「ズルいなぁ」と思いつつ、私はお兄さんとキチンと向き合って「行きます」と伝えた。
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