③度胸試しを止める転校生


 真っ白い髪に白い肌……目の色は黒だったけれど、その黒さが逆に髪や肌の白さを際立たせていた。


「おはよー」

「おはよう」


 そんな転校生の『東条とうじょう真人まさとくん』は、ちょうど空いていた私の後ろの席になった。


「はぁ」


 ──いや、良いんだよ。空いていたのだから、別に良いんだけど……。


 下駄箱に靴を入れながら、私は思わずため息をつく。


「……」


 心なしか女子の視線を授業中や休み時間によく感じる様になった。


 ──まぁ、当然その視線は私じゃなくて、東条くんに向いているんだろうけど。


 正直、その視線の中にいるのは……何とも言えない気分になる。


 ──東条くんは……。


 私から見ると、確かに見た目が全然違う。


 ──でも、かえってそれが良いのかも知れない。


 この年くらいになると……いや、少し前くらいから「恋」などに目覚め始める。

 それはむしろ「大人っぽくなる」というよりは「大人に強い憧れ」があるからなのかも知れない。


 ──それ自体は何も悪い事ではないのだけどね。


 とても大事な事だと分かっているからこそ、何も言わない。


 ──私は……まだ「誰がかっこいい」とか「好きだとか」分からないけど。


 でもきっと……いつか分かる日が来るだろう。


「ん?」


 そんな時、ふと「何か」の視線を感じてそちらの方を向いたけど……。


「……」


 視線の先には何もなく、次々と登校して来る生徒の姿しかない。


 ──気の……せい?


 ふと「黒い霧」に見られている様な気がしたけれど、どこにもいないのなら、きっと私の気のせいだろう。


 ──そういう事もあるよね。


 それに、実は何度か学校でも「黒い霧」を見た事があり、これが初めてではない。


 ──むしろ、学校とか病院とかで見る事が多いんだよね。


 ただ、コレに関しては昔。母親と祖母に話してから……話していない。


 ──変なヤツだって思われたくないしね。


 そう思いながら内履きを履いてランドセルを背負い直した。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「おはよー」


 日もいつもの様に……あいさつをして教室に入ったはずだ。


「ああ!!?」


 しかし、教室に入ってすぐに聞こえて来たのは男子の荒く大きな声だった。


 ──え、何?


 当然来たばかりの私には何が何だか分からない。


「あ、かえでちゃん」


 そんな私に気がついたクラスメイトの女子の一人が手招きをして呼ぶ。


「なっ、何? どういう状況?」


 ──とりあえず分かるのは、いつもの「あいつ」と転校生が向き合っているのは分かるけど。


 それ以外の事は全く分からず、クラスメイトの元に近寄りながら尋ねると……。


「何でお前に指図されなくちゃなんねぇんだよ!」

「指図じゃない。クラブ活動でもない大人のいない夜に学校に来んなって言ってんだ」

「はっ! 良い子ちゃんアピールかよ」

「……俺は当たり前の話をしてんだけど?」


 この言葉を言った瞬間、東条くんからどことなく冷ややかな視線を感じた。


 ──でも、そうだよね。


 普通に考えて子供だけで夜の学校に行くのは危ない。


 しかし、実は今この学校では『怪談』が流行っている。

 そして、今回あいつが「夜の学校に子供だけで行こう」と言ったのも、一種の度胸試しとして提案したのだろう。


 ──早く大人になりたい裏返しなのかな。


 ただ、それが何になるかは……正直全然分からないけど。


「は! 意気地なしはこれだからいけねぇな!」


 そう言い捨てるあいつと一緒になってはしゃいでいるのは、いつも一緒にフザケている連中だ。


 ──まぁ大方、女子の人気が東条くんにいって面白くないんだろうけど。


「東条くんが止めに入るのは意外だよね」

「うん、いつも『ふーん』とか『あっそ』とか、むしろ無反応なのに」


 コレに関しては、私も彼女たちと同意見だった。


「……何が起きても知らねぇからな」


 ただ聞く耳を全然持たない男子たちに対し、ため息まじり小さく呟いた言葉が……私の耳に届いていた。

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