②季節外れの白い転校生


「おはよー」


 学校に着く前から会う人会う人にこのあいさつをする。


「おはようございます」

「おはようございまーす」


 玄関の前では先生たちが『あいさつ運動』と言って立っている。


 そして、自分の下駄箱に行って靴を入れ替える。


「……」


 私は今年小学四年生になるのだけど、この『四年生』は……正直複雑なお年頃だと思っている。


 一つ違う三年生と違い、上級生と下級生に分けると上級生に分けられ、やたら「お姉さん」や「お兄さん」と言われる事が多くなるのだ。


 ──たった一つしか違わないのに……。


 そう思う事があるけれど、大人の人たちからすれば、この「学年」は一つの目安みたいなモノなのだろう。


「おはよー」


「ほら!!」


 教室に入ってすぐに、私のあいさつの声をかき消す位の男子の声が教室中に響いた。


「うわぁ、すごーい!」

「え、買ってもらったの?」

「いいなぁー」


 どうやらその男子は母親から「習い事でいい成績だったから」とゲームを買ってもらったらしい。


「……」


 ──自慢したい気持ちは分かるけど……。


 学校に持って来ていいモノではない。下手をすれば没収されてしまうかも知れない。


 ──それでも持って来て自慢したいんだろうなぁ。


 どうにもこの年位になると、自慢や負けん気が強くなる傾向にある……と思っている。


「かえでちゃん、おはよう」

「おはよう。朝から男子、うるさいね」

「え、朝からずっと?」

「そうそう、あいつが来てからずっとあんな調子」


 自分の席に着くと、隣の席の子が苦笑いを見せながら私に言う。


 ──多分「自分を見て欲しい」って気持ちが強くなる年頃なのかなぁ。


 それ自体は何も悪い事ではないし、むしろ成長に必要な事だと何となく分かっている。


「先生に見つかったら怒られるのに」

「それか没収されるかもね」

「はは、確かに」


 でも、私は何も言わない。


 ──まぁ、先生に見つかって没収されても……それは大騒ぎしたあいつが悪い。


 そう思いつつ、私はクラスの中心で目立っている男子をチラッと見た。


「……」


 元々、あいつは「自分が中心じゃないと気が済まない!」という人間らしく、こうして大騒ぎする事が多い。


 ──それを考えると……。


 自慢や負けん気が強くなるのは……意外と年齢は関係ないのかも知れない。


 ──むしろ「その人」次第なのかも。


 なんて事を思いながらランドセルを下ろし、自分の机に教科書や筆記用具などを入れる。


「後は……」


 ──あ、今日は体育とかないんだったけ。


 つまり今日はほとんど教室で過ごす事になりそうだ。


「ん?」


 そんな事を考えていると、ちょうど朝の会の朝読書を知らせるチャイムが鳴った。


「げぇ」


 どこからか男子の嫌そうな声が聞こえたけれど、この時間は自分で用意した本を読まなくてはいけない。


 ──しかも、先生が見回りしているし。


 そして、読書をしていなければ怒られる。だから、最悪読書をしていなくても静かにしていなければいけなかった。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「はぁ」


 遊びたい盛りのみんなにとってこの時間は退屈で仕方がないらしい。


 ──私は好きだけど。


 なんて思いつつ、図書室で借りたシリーズ物の最新刊を読み進めた。


「……」


 そうこうしている内に先生が「おはよう」のあいさつと共に教室に入って来た。どうやら読書の時間は終わっていたらしい。


 ──本当にあっという間だった。


「えー。早速ですが、今日は皆さんにお知らせがあります」


 そんな先生の言葉に各々それぞれ反応を見せるけど……その中でも一際大きな声を出しているのは……やっぱり「あいつ」だ。


「はい、みんな分かりきったリアクションをありがとう。今日は転校生を紹介します」


 先生がそう言うと、また大きな反応が起きる。


 ──まぁ、コレは「普通な反応」かな。


「入って」


 その先生の言葉と共に一人の男子が教室に入って来た。


「……」


 そもそも、この秋の時季に転校生なんて珍しい……と思っていたけれど、それ以上に驚いたのは……。


 ──しっ、白い。


東条とうじょう真人まさとくんです」


 先生はその転校生の男の子の名前を言っていたけれど、それ以上にみんなの視線が釘付けになったのは……その雪の様に『白い髪の色』だった。

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