残るは一つ
「お帰り~早かったね~」
「リシェル部屋に戻っておいで。俺は仕事がまだ残っていたのを忘れていた」
「嘘言わないでよリゼ君。仕事なら魔法は要らないでしょう」
転移魔法で一瞬にして処刑場からベルンシュタイン家の屋敷に戻ったら、優雅な雰囲気を惜しげもなく晒すネロが出迎えた。一緒にいる執事が戸惑っている。リゼルの友人だと告げても執事は彼を知らない。侮れない魔力を感じてリゼルの帰還を待っていたらしい。
リシェルはリゼルから離れ、ネロの側まで歩いた。
「ネロさん魔界に来て大丈夫なの?」
「私の心配をしてくれるの? ありがとう。昔、何年か魔界で過ごしたと言ったろう? 魔力の濃い場所にさえ行かなければ平気さ。で、君の仕返しはちゃんと出来たの?」
「えっと」
殆どはリゼルがした。と言うより、死刑囚ほぼ全員を失神させたので何もしていない。意識を保てた当主にビアンカのこれからはきちんと話してきた。
ネロは少々整った眉を下げ、リゼルへ視線を変えた。
「リゼ君。自殺防止はちゃんとしてる? 娘の末路を聞かされた父親が馬鹿な真似をしないとは限らないでしょう」
「安心しろ。牢の見張り役は抜かりなく仕事をする。舌を噛もうが頸動脈を切ろうが決して死なない。牢には、死刑囚自殺防止の術が全体的に掛けられてある。万が一も起きんさ」
「なら安心だ。良かったねリシェル嬢」
安堵しても良いものだろうか。当初、アメティスタ家がリシェルを売り飛ばそうとしていた貴族はこの話に大喜びで飛び付いたとか。顔の半分をリゼルに焼かれた割に、リゼルと会った時は恨んでいる風には見えなかった。若しくは、圧倒的実力差があるリゼルの前では見せなかっただけなのか。
リシェルを買おうとした件は、ビアンカを買い取ることで許されるとリゼルに提示されれば男は飛び付くしかない。
……と知らないリシェルは怪訝に思うだけでそれ以上は考えようとせず。
これで仕返しになったかは微妙だが、ビアンカの件は片付いた。
残るはノアールとの話し合いのみである。
仕返しの件について、ノアールには一切耳に入れない方針となった。また、煩く騒ぐからなのと愛した人が売られると知ればノアールが助けようとするから。リゼルは耳に入れても良い派だったがリシェルの頼みで口を閉じてもらうことに。
「……よし」
「どうしたの?」
「殿下との話し合いを頑張ろうって、気合を入れたの」
「言いたい事を言えば良い。王子様が何を言ってくるか楽しみだけどね」
……本当にそうである。ノアールが何を言うか不安でも、話し合いの場を設けてくれたリゼルとエルネストに感謝しないと。
話し合いまでまだ時間はある。リゼルに振り返りスイーツを食べようと提案した。
「なら、リシェルの好きなイチゴタルトを作らせよう」
「うん! パパも食べようね」
「いいよ」
「リゼ君私の分もあるよね?」
「知るか」
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