7月25日月曜日 夏の代名詞――かき氷
人間は地球にとって癌のようだ。
そんな悲しい話を聞いたことはないだろうか。
年々上昇する気温はまるで地球の表面を地獄に変える勢いだと。
地球温暖化はやはり、人類が排出する二酸化炭素のせいなのだろう。
しかし、話によるとシロクマの数は増えているらしいし、気温が上がった後に二酸化炭素が増えているというデータもインターネットに転がっている。
もう、正確な地球温暖化の原因を人類が推測することはできない。
ひとまず、まだ四季が日本にあることを楽しもうじゃないか。
今ある世界を、今ある人類で……。
期末テストの罰ゲームとして、『夏休み期間、史栞を万尋の部屋にいつでも入れる』という契約が交わされている。万尋の家に史栞がいるのは、罰ゲームの影響で多くなるのは必然であった。
しかし万尋も特に用事がないので、迷惑ではなさそうだ。ほかにも、万尋が史栞と一緒に過ごしたいと思うっている可能性もあるかもしれない。
史栞の格好は、白のTシャツと黒のサロペットワンピースだ。
室内温度二十四度のリビング。
史栞が持ってきた物を万尋は指さしながら、言う。
「こ、これはなんだ……?」
「なんだも、かんだも、かき氷機に決まってるでしょ!」
さも当然のように史栞が答える。
テーブルに置いたかき氷機はペンギンの形をしている。頭の部分にハンドルがついていることから、手動であることがうかがえた。
万尋がハンドルをクルクルと回す。
「夏と言えばかき氷ってのはわかるが、わざわざ自作する必要ないだろ。確か、近くの喫茶店『ブラウアーフォーゲル』でもかき氷は売ってたし」
喫茶店ブラウアーフォーゲルは、
万尋の話に耳を傾けていた史栞は、やれやれと肩をすくめる。
「夏は長いんだよ、わかってる?」
「そりゃあ、9月まで暑い予定だしな」
「私たちは何回かき氷を食べるの? 1回だけ? 違うよね、1000回だよね?」
「多すぎだろ⁉ せめて、二桁で押さえてくれ」
「1000回は言葉のあやなんだけど、数回は食べることになる。ならばこそだよ! お店で買うより作った方が安く済む!」
「その通りなんだが……このかき氷機何円した?」
「な~んと驚き、税込み980円です‼」
両手をしっかりと開く史栞。
万尋は史栞の手相を眺めながら、頭で計算する。
「だいたい一杯あたり200円ぐらいだから、5回作れば元は取れそうだな」
「5回なんて3日で元がとれちゃうね。なら、さっさと第1号を作っていこう!」
史栞がかき氷と一緒に持ってきた大きめのクーラーボックスを、テーブルの下から引っ張り出す。
「そんなもん持ってくるなら、俺に声かけてくれたら良かったのに」
「まあまあ、そうしちゃうと驚きがなくなるでしょ?」
「いや、最初っから驚きもなにもなかったがな」
「マジか⁉」
目を丸くする史栞だったが、すぐに調子を戻し、クーラーボックスを開けた。
中には、氷ブロックが二つとシロップが四つ、ガラスのお皿とスプーンが入っている。
中身を見た万尋は、クーラーボックスを少し持ち上げた。
「ちゃんと重いなー」
「肩かけ紐があるから、運べないほどじゃない。持ち運び出来ないほど重量だったら、私は途中で干からびてだろうね」
「そん時は俺に電話しろよ。氷背負って熱中症なんて変なニュースになりそうだ」
「あれだね、飲み物持っていたのに熱中症になったという摩訶不思議な話。実は、飲み物が凍っていて、飲めなかったとか」
「あー、カチカチまで凍らすと中々溶けないからな、あれ」
「子どもの時、太陽に掲げたり、振ったりして、数滴のジュースを飲んだなぁー。そのおかげで砂漠だけは一生行かないと誓ったよ」
「ジュースで大きく出たもんだ」
2人は話をしながらかき氷の製作準備を進める。
かき氷機の蓋を取ってそこに氷ブロックを入れる。氷が出る場所にガラスの皿をセットし、あとはハンドルを回して氷を削るのみである。
ハンドルを握った万尋は、史栞の方を見た。
――サムズアップ。
万尋がハンドルを回し始めると、ガガガァ――――という氷の断末魔が響く。
「固った⁉ これは骨が折れそうだな……」
「頑張ってよ。私のかき氷がかかってるんだから」
「ヘイヘイ」
万尋が氷を削るのを史栞が眺める。そんなリビングの光景だった。
万尋の奮闘のおかげで、2つのかき氷が完成した。
「お疲れ様~。はい、食べていいよ」
「俺が作ったんだけどな」
「かき氷機と氷、シロップ、お皿は私が持って来たんだけどね」
「「…………」」
史栞が万尋にスプーンを渡し、四つのシロップをクーラーボックスから取り出す。
それを眺める万尋。
「えーと、――イチゴ、メロン、レモン、ブルハワイ」
「万尋知ってた? シロップって全部一緒の味なんだよ。だからこれらは全部同じ味」
「色と香りによる脳の錯覚ってやつだろ。でも、確かにイチゴやメロンの味がするんだよな。不思議だ」
「なので私は――全部かけます。レインボーかき氷の誕生!」
4種類のシロップをかけた史栞のかき氷は、色が混ざり合い絶妙に汚い色合いになってしまう。それでもレインボーであることには変わりなかった。
「そんな子どもみたいな……。俺は普通にイチゴで」
万尋のかき氷はルビーを思わせる美しい赤色だ。
2人は手を合わせて、かき氷を食べ始める。
「なんの味か見当もつかないけど、甘くて冷たくて美味しい!」
「うん、イチゴの味がする」
「気のせいだー。ただの甘味料の味だ」
「それはお前のレインボーシロップの話だろ。てか、そんなバクバク食べると――」
「のおおぉぉぉ――――っ⁉ 頭が痛い!」
「だから言わんこっちゃない」
「これが……アイスクリーム頭痛かぁ」
「前も言ってたな。いつだっけ?」
「いつでもいいじゃん。というか、今日ってかき氷の日だったりするんだよ。相変わらずの語呂合わせの特別デー」
「
史栞がガラスの皿をスプーンで叩いて反応する。
「うん、そうだね。お風呂の温度ぐらいまで上がるって、未曾有の災害だよ」
「史栞は、暑いのと寒いのどっちが好き?」
「やっぱ、秋かな~。読書の秋、食欲の秋、芸術の秋。これだけ何かをするのにいい気候もないでしょ」
「俺は、好きな季節の話じゃなくて、暑いか寒いの話をしているんだが」
「えぇー……しいで言えば、寒い方。夏は裸一貫でも暑い時は暑いけど、冬なら何枚も着込めばいいからね。と言っても夏はクーラー、冬は暖房、家ならどっちでも関係ないね」
「な、なるほど。科学技術の進歩は、人間を堕落させたようだ」
「ちょいちょいっ、最先端のクーラー様を使っている貴様はもう、堕落人間側なんだぜ、ひっしっしっしっし!」
史栞が万尋の前で、かき氷を食べたスプーンをクルクルと催眠術師のように動かした。
「じゃあ、クーラー切るか」
「おいおい⁉ そんなことしたら私帰るからな! 帰るからな!」
「リビングは妹も使うし、切るつもりはないけどな」
「妹? 前も言ってたね。私は見たことないけど」
「史栞が重度の人見知りだから、八合わせないように部屋に居てもらってるんだ。会いたいのか?」
「ご勘弁を」
「だろ。まあ、今日は友達と遊びに行ったけど」
「こんな最高気温記念日の日に…………子どもとは恐ろしい……」
「史栞も少し前まで子どもだったはずだが」
「私は小さい時から、超インドア派なのよ!」
「予想通り過ぎ」
かき氷を食べ終わった2人は、美味しかったので今後も作るだろうと、そういうわけでかき氷機は五宮家に残ることになったのだった。
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