最終兵器~リーサルウェポン~


 東の海、マッピングした位置に外出許可証を貰って四輪駆動を駆って辿り着く。すると、そこには先んじてソーディが居た。

「早いね、部活は?」

「きり上げてきました!」

「……そ、ありがと。でこの事、他の人には」

「勿論、内緒です!」

「よろしい」

 ソーディは中空にホログラムウインドウとキーボードを浮かび上がらせると、それを操作して、扉の電子パネルへとアクセスする。

「案外、古臭いプロトコルですね、総当たりで行けそうです」

「時間は? どれくらいかかる?」

「私のこの端末は最新式のハイスペックモデルですよ? 1分ください」

「さすが電子工作員」

「見習いですけどね、えへへ」

 一分後、重い扉が月の砂を掻き分けて開いていく。中は緑色の照明で照らされており、全貌は外からでは分からなかった。

「なにがあるんでし――」

 麻酔銃を撃ち放った、宇宙服をも貫通する威力、傷が残るかもしれないが、命を取らないだけ許して欲しいとバレッタは思いながら、弾が貫通して開いた穴をダクトテープでふさいでいく。そしてそのままソーディを四輪駆動に乗せて、自動操縦をオンにして、学園へと帰す。残るのは自分だけでいい。中に足を踏み入れる。階段を一段一段下る。持って来た懐中電灯でもってその場を照らす。そこにあったのは異形のΠパリスだった。大きさは約30メートルほど。他に類を見ない大きさだ。だが注目すべき点はそこではない。

「これ、生きて、る?」

 脈打つ鼓動、そうそれは生体兵器だった。もはやおΠとも呼べない代物、バレッタは暗号通信で本部へと連絡を取る。

「緊急の要件です。アポロン学園にあるとされた機密兵器、コードネーム、不死身のアキレウスは生体兵器でした。はい、はい、なので奪取は不可能と判断、破壊を意見具申したく思います。はい、はい。了解しました」

 意見は通った。問題はどうこれを破壊するか、だ。

「月面裏側にある隠し格納庫からヘクトール000の出撃許可を願いたく、はい、はい、ありがとうございます」

 ヘクトール000、地球産Πの最新型、対月面兵器の要であった。バレッタはそれの使用に踏み切った。

 光が飛び込んでくる。それはブースターの光だ。音速を簡単に超えてそれは此処まで届いた。ヘクトール000、高速機動爆撃機体。これの一斉射でこのデカブツ『不死身のアキレウス』を討伐する。その時だった。レッドアラートが鳴り響く。回避運動。間一髪、レーザー照射がバレッタが居た場所を撃ち抜いた。撃ってきた機体は見えない。どこかに隠れている。だが初撃でバレッタを仕留めきれなかったのは相手にとって不利である。なぜならばレーザー系統の兵装は連射が出来ない。砲身の耐久の問題とチャージに時間がかかる問題を抱えているからだ。レーザー兵器は一撃必殺を基本理念に設計されている。それを逃したら後は泥沼だ。ヘクトール000は全砲門を開く。狙いは不死身のアキレウス、これを破壊しこの場を離脱。それが最適解、回収班の位置も把握している。

「一足遅かった、ね!」

 トリガーを引く。爆撃が敵性コードネーム不死身のアキレウスを襲う。悶え苦しむように燃え盛る生体兵器の機体。バレッタはそれを最後まで眺める事も無くブースターを再点火し、その場を離脱する。音速まで一気に加速する。しかし、レーザーの脅威は去ってはいない。クレーターの凹凸を盾にする。回収班のシャトルを見つける。後はアレに乗って帰るだけ――そう思って安堵した瞬間だった――シャトルがレーザーによって焼き払われた。帰り道を失ったバレッタの顔が絶望に染まる。後ろから迫る機体は青いカラーリングと勲章がマーキングされた派手な機体、それが想起させるのは。

「ミラール=ブレイン!!」

 オープン回線でドスの効いた声を送るバレッタ、すると冷ややかな返答があった。

「やっぱりあなただったのねバレッタ=リィンカーネーション」

 長い長いアンチマテリアルライフルのような砲身を持った機体、ヘクトール000は敵性機体を照合する。学園内の機体のデータは今日のゴミ拾いの時にしておいたのだ。そのデータは既に本部に送っていた。そのデータからあれがスウォード017だと言う事が判明する。例に違わず一撃必殺型のレーザー特化型機体だ。三射目を放とうとしているのを目視する。月の砂をブースターで吹き上げて撒き散らす。少しでも減衰させるためだ。とどめと言わんばかりに鏡面加工したチャフをばら撒く。これでレーザーは拡散する。すると、スウォード017の後ろから、燃え盛る不死身のアキレウスが迫って来るのが見えた。まだ生きていたのだ。スウォード017に引っ張られている。レーザーが放たれる。粉塵とチャフに阻まれヘクトール000には届かない。しかし相手は二機、こちらは一機、不利な状況は変わりない。そこでシャトルの残骸から、ヘクトール000用の弾倉を見つける。不死身のアキレウスを焼き払った時に使ってしまった全弾を補給出来た。死んだ仲間達に感謝を告げながら、バレッタは目の前の二機と対峙する。まずはミラールから落とす。そう決めていた。

「仲間の、仇よ」

「裏切者には罰を」

 二つの意思がぶつかり合う、弾倉の中から煙幕弾をセットし発射、敵の視界を晦ませる。レーダーに捉えられる前に超音速まで加速する。対G訓練はとっくの昔に済ませている。ブラックアウトを乗り越えて、スウォード017の背後に回り込む。

「獲った」

「獲られた、の間違いでなくて?」

 背後には不死身のアキレウスが居た。だがお構いなしにライフルを撃ち放った。スウォード017の装甲を撃ち抜き、穴だらけにする。球状の爆発が起こり、爆散した塵がゆっくりと下に落ちていく。そしてヘクトール000は不死身のアキレウスに掴まれた。機体が軋みを上げる。しかし、バレッタは獰猛な笑みを浮かべてトリガーに手をかけた。

「爆ぜろ!!」

 自爆に等しい超々近距離爆撃。その炎にまかれてたまらずアキレウスはヘクトール000から手を放す。しかし、そこには片腕を失っただけのヘクトール000の姿があった。

「ここでお前を破壊して、私は任務を遂行する!」

 そのために生きてきた。そのために産まれてきた。そのためだけに育てられた。それ以外に目的なんてなかった。月には悪魔がいる。その悪魔さえ倒せば戦争は終わる。そう言われて、地球で友達を失って。今ここで目の前のおぞましいナニカと戦っている。なんて惨めな人生だろう。だが、悔いはない。仲間も良くしてくれた。自分が今度は報いる番だ。

「うあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 爆撃に次ぐ爆撃、バックパックから大剣を引き抜き、不死身のアキレウスに斬りかかる。生体装甲を引き裂き、引き千切る。内部に見える赤黒いパイプ。まるで生命を模した人間もどき。こんなものがいつか量産され、外に、地球に侵略に来るとしたら、それはきっと悪夢だろう。それを断ち切るために、刃を振るった。何度も何度も。トドメと言わんばかりにゴミ拾いの時にくすねて来た強化ナパーム弾を放り投げてライフルで点火する。その炎は生きているかのように不死身のアキレウスを包み込み飲み込む。炎に包まれた生体兵器は断末魔を上げて――通信に多大なジャミングがかかった――緑色の機体は黒く変色していった。そしてピタリと動きを止める。着陸するヘクトール000、バレッタは生きている自分の体を抱きしめる。震えている。あんな戦闘の後だ、無理もない、するとイエローアラートが鳴り響く、近づいて来るいくつかの機体。アポロン学園のモノだ。これでバレッタは極刑に処されるだろう。よくても永遠に営倉入りか。学園がどういう処分を下すか分からなかったが、もう抵抗する気力もなかった。照明に照らされるヘクトール000は鈍色に輝いた。

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