六節 もう一度

 爽やかな風が顔一面に吹き付けられる。


「おはよう。」


 あの声だった、忘れていたはずが、良く覚えている。


 恐る恐る目を開けると、やはりあの草原だった。


「あの…」


「ん?」


「向こう…っていうか、その…私の体、乗っ取ろうとしました?」


 前に、昨日だろうか、此処に来た時、向こうで会おうなんて言っていたから、それを怪しく思っての言葉だった。


「えーっと、信じてもらえないかもしれないけど、レニスちゃんの中には、レニスちゃんと、私、あともう一人、居るんだよね。」


「え?」


 爽やかな風がピタリと止んだ様な気がした。


「いやー向こうで会おうなんて言ったけれども、別の体が無いと私は外に出られないんだぁ~さっきはあの人がそれこそ起きて、貴女の体を使おうとしたから、頑張って眠らせたけどね。」


 姿の見えない少女と話している時点で、夢テンションだが、彼女の言っている事を何の疑いも無く信じてしまう。


「誰なんですか…その方は…」


「ん?だれ…かぁ…そうだなぁ、消えちゃいそうな人なんだよね、名前は分かんないや、でも、あそこで見つけたんだ、私達の家で。」


 レニスの足元が沈み始める。


「あ、時間みたい、もし覚えてたら、あのエルフに、此処に居るけど、今は眠ってるって伝えてあげて、あと器があればこっちはいつでも渡せるとも言ってあげてね。」


 二度目なのに怖かった、分かっていても、止め処なく沈んでいくのは怖かった。


「分かりました…覚えていたら…」


 怖いはずなのに、怖気付いた様子もなく返事をしている私、夢テンション恐ろしや。


 顔が沈むと目が覚める。少し涎が口から垂れている様に感じて、手の甲で拭うと、青い液体が甲に伸びていた。

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