幕間 太古の夢

「ねぇ、おねえちゃん、どこからきたの?」


「ずっと、ずぅーっと東の森、エルバンって所。」


「そうなんだぁ!あるいてきたの?」


「そうだよ?」


「そっかぁ~すごいなぁ、楽しかった?」


「まあまあ、かな?」


「まあまあ?どういうこと?」


「こうやって君と出会ったみたいに、いろんな人と出会って、さようならして、だから、まあ、うん…楽しかった…かな?」


「へぇーそっかぁー。」

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「お姉ちゃん、私、お姉ちゃんみたいに格好良くなるよ!」


「おお!嬉しい事言ってくれるじゃない!このこの~でもねぇ?君は君のままで良いんだよ、誰かを、私を真似する必要なんてないんだよ。」


「うぐぅ、はなぁしぃてー苦しいよぉ」

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「先に行ってしまうのですか…?」


「うん…行く…」


「待っては…くれない…ですよね…」


「…」


「いってら…しゃい…」


「…いってきます。」

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「すみません…その…申し上げにくいのですが…」


「…はい」


「その…お亡くなりになっている…様です。」


「そう…ですか…」


「ご遺体はこちらの保管室に届いているそうですが…」


「が?」


「その…損傷が…」


「見せて…頂けますか?」


「その…ご関係は…」


「私の…愛する人…でした。」


「分かりました…アザライさん、この方を。」


「どうぞこちらへ…」

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「どうぞ…私は外で待っております、御用がございましたらいつでも出て来て頂いて結構ですので。」


「はい…ありがとうございます。」


「では…」


「待っててくれなくても…生きていてくれたら…それだけで良かったのに…ザラザラで、真っ黒焦げ、こんなに沢山、穴開けて…ボロボロにも…程があるでしょうが……」

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「もうよろ…それ、どうなさるおつもりなのですか?」


「ここで…悼むだけでは…足りないのです。」


「しかし……分かりました…こちらで何とかしておきます。ネクロマンスでもオートマタでも何でもやって、幸せになって下さい。」


「何故それを?」


「此処、勤めてると多いんですよ、そういう人、普段は絶対通さないんですが、その…私ここに勤めてちょっと歪んでしまいまして…一人の男として、応援して…ますね?」


「そ…そうですか…」


「流石に元来た道を戻ると大変な事になるので、この袋に詰めて、こちらの搬入口から出て下さい。」


「…ありがとうございます。」

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「んあ?はわ~ふ……ちッ」


「お目覚めですか?」


 薬臭い工房、ベッド代わりのソファから起き上がる。


「F型か…そういえばパーティーに…あー何でもない。」


 寝ぼけに気が付いて、目を擦る。


「良いですよ…気にしてますけど、どうせ私が行ってたらもっと酷い事になっていたでしょうし…」


 自嘲気に言う声が暗闇に冷たく漂う。


「いつ来たんだ?」


「ティアムス様が虚ろな目をして工房に歩いて行くのを見たので、お風呂掃除を終わらせてから来ました。」


「そうか…ふわ~ふ…心配、かけたな。」


「いえ、そんな事より、久しぶりにあの夢ですか?」


 F型の言葉は私の口をしばらく詰まらせていた。


「ティアムス様…」


「なんか…いや、やっぱり何でもない…」


 今、彼女の悲しむ事を言いかけた。


「はぁ…なんでも良いですけど、明日は休んだらどうですか?」


 言わずとも彼女達…マキスはそれを理解してしまう、個体差はあっても、一様に。そんな機能を付けた覚えは無かったが、学習機能がある日突然、全てのマキスに変異が起きたのだ。いや、せざるを得なかったのかもしれない。


「…」


「休みたくない…ですよね、でも、もういいんじゃ」


 F型の言葉を遮って言う。


「やっとだ、やっとスタートラインの一歩手前なんだ。」


 それ以上、二人の間に言葉は無かった。


 片付けられた工房で一人、ドラフターに向かい、ペンを持つ。


「すまないな、F型、いつかお前にも最高の一時を用意してやるから…」


 伝えられない言葉の虚しさが、ペンを速める。

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