幕間 光を置いて
幕間 光を置いて
消毒の匂い漂う病室棟で、コツコツとブーツを前に。
廊下に並ぶ病室の名前を見ながら、娘の名前を探し、それを見つける。
病室の扉をガラガラと開き、娘の生活用品をいつもより多めに入れたリュックを肩に掛けなおした。
上体を起こしてベッドに座っている娘を見て想像してしまった。
街の中を楽し気に先導する娘の姿を。
「パパ、おはよう…」
髪は色を無くし、頬はこけて、目はやつれてしまっている。
「あぁ、おはようシャイニ…着替え…持って来たぞ…」
本当なら、病と闘う娘を元気付けなければいけないのかもしれないが、こんな残酷な運命を笑い飛ばせるような、そんな強さは私には無いのだ。
「うん…ありがとう…パパ…」
ベッドの横に歩いていくと、具合の悪さが犇々と伝わってくる。
「どうだ…体の方は…」
リュックを床に置き、男は言う。
分かっているのだ…良くないことなど、けれど、何を聞けばいいのかが分からない。
「元気…って…言えないよね、パパ、気…遣ってるの?」
乾いた唇で笑顔を作り、冗談気に言う姿を見て、私は自分が情けなくなる。
「いや…悪かった、お詫びに水でも買ってくるよ…」
そう言って、娘から逃げる様に病室から出てきてしまった。
病院の売店に着くと、軽い財布を取り出して、水を注文する。
「すいません…」
後ろから低い声が聞こえ、振り向くと、そこには自分と同じくらいの背をした老人が立っていた。
「あ…すいません邪魔でしたよね…」
謝罪を口にしてカウンターから退くと、手を肩ほどに挙げて、口を開く。
「いえ…用があるのは…売店では無いのですよ、仕事のお話なのです。」
格好では判断されていないはず、前に頼まれた?見覚えの無いご老人だが、自分が忘れているだけだろうか。
「すいません…どこかで…」
「それも違います…ギルドの受付の方から頼めそうな方をお聞きしましたら、ここにいるだろう…と。」
個人情報というものはないのだろうか…経路は分かった、なら受けても良いか、今はとにかくお金が必要なのだ。
「分かりました、今はここに用があるので、仕事の話は後日、ギルドで伺います。」
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