第5話

振り返ると、そこにはスーツを着た、背の高い端正な顔立ちの男性が立ちはだかっていた。

「え、本当にチャーミー……?」

紬は、驚いたように目を何度も瞬きさせた。

「はい。これはオラ……ではなく、ワタクシの得意魔法、”変装魔法”だ……じゃなくて、です」

人間の姿になったチャーミーは、髪色はネコの姿の時と同じ灰色で、瞳の色も同じく朱色だった。

物腰柔らかな物言いや、スーツ姿のせいか、本物の執事に見える。

「でも、変装しただけで、どうお手伝いをするの?」

紬の言葉に、待っていましたと言わんばかりに、蒼が前に出た。

「ここで、アタシの得意魔法の出番!」

得意気に告げると、蒼もまたもや呪文らしき言葉を唱える。

「ジンチェ・ウションイ・デ・ウホマ!」

すると、今度はチャーミーの頭の上に小さな輪っかが現れ、その輪っかが頭の上をぐるぐると回り始めた。

「ほら、ここに有名人のチャーミーがいるわよ!」

蒼がチャーミーを指差しながら、興奮したような声を上げる。

もちろん、チャーミーは有名人でもなければ、本来は人間に化けた、ただのネコなのだが。

「ほ、本当だ?!あの有名なチャーミーさん!さ、サインください!!」

どういうわけか、紬はチャーミーを見て、目を輝かせた。

おまけに、サインを貰おうとカバンの中からノートとペンを探し始める。

「これはまたキレイに引っかかっりましたねぇ」

チャーミーが薄ら笑いを浮かべると、隣で蒼があきれたようにため息をついた。

「ちょっと、気味悪いこと言わないで」

次に蒼は、指をパチンと鳴らした。

そうすると、チャーミーの頭上を駆け回っていた輪っかは消滅した。

そして、チャーミーの変身も解け、ネコの姿に戻っていた。

「あれ、私何してたんだっけ……?」

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